第6章 流されて異界
第109話 蓮の花
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ゆっくりと視線を上げる俺。
普段よりもずっと明るい月夜で有った。原初この惑星に衝突した小惑星に因って誕生した衛星。一般に月と呼ばれる衛星と、何処か位相の違う――おそらく、異世界の地球の姿を映している幻の月が存在する夜空は非常に明るく、目前に墨絵の豪邸を浮かび上がらせていた。
左右対称に広がる三階層から成る西洋風白亜の豪邸。家の規模で言うのなら俺の通って居た高校の校舎よりも大きく、かつて、この屋敷の主が誇った権勢を感じさせずには居られない、そう言う建物であった。
しかし――
しかし、何故か今では流れる雲がふたつの月を隠す度に、世界を……そして、目の前の白亜の豪邸を包んだ影が一段と深みを増して行くかのように感じられる。
当然、屋敷自体が荒れている訳でもない。まして無人……誰も住む者が居なくなった空き家と言う訳でもない。
しかし、この屋敷からは何故か、死と滅びの香を嗅ぐ事が出来たのだった。
そう。前当主が狩場での不審死をして以来三年。領地の管理は王都リュティスより派遣された者等が行い、大公が死した後に願い出されている夫人に対しての死亡した大公位の相続が未だ認められない家の現状が、この家に掛かる影の色を濃くしているのだろう。
そう考えながら、蒼き盾の中に白きレイブルと三本のアヤメを象った紋章。オルレアン大公家の紋章を見つめる俺。
その瞬間、初夏の爽やかな風が蒼き髪の毛を優しく弄り、再び、ふたりの女神の花の容貌を雲に隠した。
ラグドリアン湖の向こう岸――トリステイン側では来月にマリアンヌ太后の誕生日を祝う園遊会が開かれるらしいのですが、今回も俺に取ってソレは別世界の出来事。何故か貴族の世嗣たる俺の御披露目は未だ行われず、ねえちゃんの方のみが社交界にデビューする事が決定して居たのみ、ですから。
もっとも、そんな面倒な事はどうでも良いですかね。
相変わらず脇道へと逸れて行く思考を、軽く頭を振る事によりリセット。そして、
その後に目指すべき場所。三階の端に存在する部屋のバルコニーを見上げる俺。
そうして……。
そうして、その俺が……。蒼い髪の毛の十歳ぐらいの少年の動きを、神の視点で見下ろすもう一人の俺。身軽な――まるで練達の軽業師か、小説や漫画の中に登場する忍者か、と言う身のこなしで目的の地まで昇る俺を見つめる。そして、ぼんやりとこう思った。そう言えば、この頃の俺は未だ重力を操る能力を上手く扱えなかった。能力は発動出来たけど微妙な調整が出来ずに、人間を掴もうとするなんてとてもではなく。
馬鹿力だけ、なら持って居たのですが。
更に、この部分に関しては、後にハルヒのトコロで有希を運ぼうとした時に――
ぼんやりと夢見る者の思考でそう考え続ける俺。
……そう、こ
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