王の荒野の王国――木相におけるセルセト――
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ースの音声などたちまち聞こえなくなる、強い耳鳴りだった。空間が歪む。恐慌に駆られて立ち上がった綾香は、眩暈に耐えきれず膝をついた。そのまま、壁に手をついて立ち上がり、背中を曲げた姿勢でよたよたとトイレに駆けこむと、先刻のカップ麺を残さず洋便器に吐き出した。
塩の塊と油脂の塊。堪らなく不味い後味が、喉に残った。何もかも吐いてしまい、胃が空になる頃には、耳鳴りも眩暈も少しましになっていた。
手洗い場に出ると、健康な太陽が西に傾き始めていた。太陽を背に鏡に映る自分の顔が、とても自分とは思えない。知らない女がそこにいた。初めて見る人だった。
「あなたは誰?」
鏡の中の知らない女が、土気色に青ざめる。首に氷の息吹が吹きかかり、汗をだらだらかきながら、その冷たさに硬直した。動悸がし、立ちくらみを感じた。奥歯を噛んで立ちくらみに耐えながら、綾香は目を瞑った。瞼の闇を、空の太陽と鏡の中の太陽、二つの光が眩く照らす。
何故だかそれを、灼熱と極寒の、小さな地獄の星だと思った。
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