王の荒野の王国――木相におけるセルセト――
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せん。頂いたご指摘につきましては担当部署に報告の上――」
『それは昨日も聞いたよ! でもホームページの文面直ってないじゃん! 商品説明のページのとこさあ。触ったら火傷しますって書けよ! ねえ。書いてよ! ねえ。早くさあ。いつ直すの? ねえ。君ぼくの事馬鹿にしてんの?』
世の中にはびっくりするほど頭の悪い人間がいるものだが、それでも相手を馬鹿だと思ってはいけない。馬鹿だと思っては。綾香は自分に言い聞かせる。それは、相手がお客様だからとか、会社にも落ち度があるかもしれないからではない。相手を馬鹿だと思ったら、その馬鹿の相手に時間をとられている自分が惨めに思えてくるからだ。
『もうさぁ、申し訳ございませんとか謝罪の言葉は聞き飽きたの。具体的にどうしてくれるかそろそろ教えてほしいの』
「それにつきましては、昨日からのご案内の繰り返しとなってしまいますが」
若干の嫌味をこめて言い返す。
「今回につきましては商品を着払いでご返送頂いた上でお代金をクレジット請求キャンセルにてお戻しさせて頂き――」
『そうじゃなくて! 何回も言うけどぼく火傷したんだよ? 怪我してるんだよ? お宅の商品のせいで。普通さ、ウチまで来て頭下げるのが筋ってもんでしょう』
「申し訳ございませんが、弊社ではメールかお電話でのご対応と――」
『申し訳ございません申し訳ございませんって、あんた全然申し訳ないとか思ってないでしょお!』
綾香はヘッドセットのマイクを口から遠ざけて、相手に聞こえぬよう溜め息をついた。綾香は子供の頃から怒っている大人が怖かった。大人になった今でも変わっていない。
電話越しに負の気が絶え間なく押し寄せくる。頭がどんどん重くなってきて、頬杖をつかずにいられない。額を指でつまんだ。子供の頃からの習慣で、眉をぎゅっと顰めるか額を強く摘まむかすると、どういうわけだか感受性が鈍るのがわかるのだ。この部署に入ってから、額を摘ままずに過ごさぬ日はない。
それでも、頭ばかりが肩も重くなって、ひどく凝る。肩こりからくる眼精疲労と吐き気は耐えがたい程だ。男はひとしきり金切り声で喚いてから電話を切った。綾香はヘッドセットを長い髪ごと引きちぎるように頭から外し、机に放った。後はテンプレ通りのメールを送ってやる。商品を弊社に返送してください。返送を確認でき次第返金となります。これ以上の対応はできません。申し訳ございませんが。申し訳ございませんが。時刻は午後三時になっていた。このメールを送ったら昼休憩を取ろう。
そう思っていたら、北村かなえが歩いて来た。
「あのさあ佐々木さん」
「はい」
「そのお客様の対応終わったらさあ、新村さんにいつになったら仕事に出てこれるか電話で聞いてくんない」
鬱で休職中の社員の事だ。綾香は嫌な気分になった。
「なかなか、難しいんじゃ
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