サンドイッチ
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見上げても戦艦も見えない。だから危機感が薄い。
しかし、だからおとなしく乗船を待ってもいる。
もしここに、いや、それがたとえ人家も何もない場所、海であっても、一発くらえばパニックを起こした民間人で大変なことになるだろう。
軍用船があるといっても戦艦ではないし、民間船にはビーム砲は装備されていない。もしすべてが戦艦でも数の勝る敵と正面から戦うなど愚の骨頂だ。
かといって、民間人を乗せた船ですから通してください、と頼むわけにもいかない。
うん?
なんだ?
「サンドイッチをどうぞ」
女の子が話しかけているのは私だったのか。
やれやれ、どうにか船の数は揃った。少々、いや、かなり窮屈だがそれは辛抱してもらおう。
戦略はどうにか整ったが、次は戦術だ。こいつばかりは敵の出方も重要だし……いや、出てもらっては困る。我々など道端の小石だと思ってもらわねばならない。
「中尉、昼間は大変でしたね」
「昼間に限らずいつも大変だよ」
「そうではなくて……サンドイッチですよ」
「なんだ、見てたのか」
大尉が笑っているのは口では大変だと言いながらも、本当は違うんだな。まあ、いい。
「あの子に何て言ったんですか?」
「はあ?」
とぼけたわけではない。
「さあ……ごちそうさまとか?」
食事の後に何か言うならごちそうさまだ。
「それなら、あの子、あんな顔しませんよ」
「そう言われても……」
私がさあ、と首を傾げてその話は終了した。後から、そういえばサンドイッチが喉に詰まったことを思い出した。たぶんそれにびっくりしたんだろう。
ようやくハイネセンへ帰れる。
船の準備ができて、全員が乗り込んで、一つのベッドに三人で眠るほどではないにしても、ギリギリまで詰め込んだから、快適な船旅には程遠かったけれど。
「もう少しだけ待ってください。必ず、皆さんを安全に脱出させますから」
やっぱり民間人はお荷物なんだ。俺たちなんかどうでもいいんだろう。三〇〇万人は多過ぎる。掴みかかろうとして止められる人もいたし、罵る人はもっとたくさんいた。
「お荷物だなんて思っていません。私の言うことを信じてください。今はまだ脱出する時ではないんです」
いったい何度、中尉さんはそう言いに来たかしら。
通信ではなく、部下に伝えさせるのでもなく、自分の口で。
中尉さんの言う、その時期がくるまでの間に。
そしてヤン中尉の言葉はその通りになったんだわ。
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