サンドイッチ
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情、それが戸惑いを交えた笑顔に変わっていく。
そうね、体が資本だと知っていても、他人から、それも見るからに子供なわたしから言われるとは思っていなかったでしょうから。
「パンは焼きたてなのかい?」
「ええ、そうよ。焼いたのはわたしではないし、サンドイッチに作ったのもわたしではないけれど。食べたから味は保証できるわ」
やっと受け取ってくれた。
ああ、何か飲み物が必要ね。それにわたしがそばで見ていたら食べにくいでしょう。
ミルクと砂糖はどうすればいいかしら。糖分は頭の栄養だから問答無用で入れてしまおう。ミルクは無しで。
子供なら両方たっぷり入ってないと飲めないこともあるけれど、大人は違うわよね。普段はミルク入りが好きな人でも、無ければ無いでも飲めるはず。
紙コップに入れたコーヒーは少し冷めている。持ち手もないから、熱いと持ちにくいし、これだけ人が多ければぶつかることもあるだろうし、冷めていたら火傷もしない……そんなことまで考えてコーヒーがぬるいわけではないだろうけど、昨日からコーヒーを注ぐ度、配る度にわたしはそんなことを考えている。
あっ!
「中尉さん!」
そんな意味を込めて、卵とハムだけのサンドイッチだと言ったわけではないけれど、食事をする時間もなくて、今も最初は断ったくらいなのだから、もう少し想像力を働かせればよかった。
「コーヒーです。ぬるいから一気に飲んでも大丈夫です」
サンドイッチを喉に詰まらせて目を白黒させていた中尉さんに差し出す。
片手で食べられるといっても、食べていれば書類はめくれないし、人に指示することもできないのだから、急いで食べようとしたに違いない。
そう、美味しいから、だけでなく、量的に足りないわたしには「よく噛んでゆっくり食べるのよ。少ない量でも満腹感が得られるから」とお姉さんが教えてくれたのとは逆で。
コーヒーで喉に詰まっていたサンドイッチは胃へ押し流されたらしい。よほど苦しかったのね。紙コップが握り潰されているわ。
「コーヒーは嫌いだから紅茶にしてくれた方がよかった」
えっ、何を言っているの、この人は……こんな時に。
食事があるだけでも良い方で、しかもたった今まで息ができなくて、死にそうな顔をしていたのに。
まったく机上の空論とはうまいことを言ったものだ。
戦術の前にまず戦略なんだが、その準備段階での躓きが多すぎる。
いや、待て待て、難関はこの後なんだ。三〇〇万人の民間人をかき集めた船に乗せた後。そこまでは船の数と各定員、それに名簿を当てはめていけばよい。
ただそれが荷物ではなく、意志のある人間であることを忘れてはならない。コンテナなら港に一週間だって放置しておけるのだが。
幸いにして、まだ帝国軍からは一発の攻撃も受けていない。
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