サンドイッチ
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人なら食事やトイレくらいで文句を言うな、と一喝で済む。あるいは難民キャンプなら民間人も少しは状況を見てくれるだろう。戦時下で物資も人員も足りないことも。
しかしまだ攻撃を受けたわけでもない。包囲されているのもここからは見えない。
昨日までは普通に生活していた人たちだ。食べ物に不自由もしていなかった。住居だってある。
そこから持ち物は鞄一個で、それ以外を放棄させられた。ただちに船に乗せられて脱出ならば、それも諦めがつくだろうに、ただ集められただけだ。
「中尉、いったいどうしたものでしょうか」
「どうしたも何も……彼らの不満はもっともだよ。何ら生活に困っていなかった人間が、差し迫った危機も感じられないのに、資産を捨てさせられ、食事やトイレにも不自由な軟禁生活なんだ」
「いっそ、帝国軍が一発撃ってくれたら……」
「そうなったら暴動だ」
冗談でも言ってくれるな、と唇に立てた人差し指を押し当てる。そう、まったくもって冗談ではない。
「文句も言うだろうが、言われた箇所から動かずにいるのは、命の危険を感じていないからだよ。もしも攻撃を受けていたら、早く逃げさせろ、早く撃退しろ、我々を守れ、税金泥棒───と言われるだけならいいさ。乗船を争って大変な騒ぎになって死人が出るだろう。それも女子供が押し潰されてだ」
「想像したくないですね」
「だろう? 戦場が悲惨なのは戦場だからだ。私だって味方を捨て置くことはしたくないが、戦場では仕方ないこともある。置いていかれる方だって覚悟があるさ」
「それだって、何度も体験したいことじゃあないです」
「とにかく今以上に騒がせたくはない。食事の後に何が必要か、わかっているだろうな?」
もちろんトイレ問題を除いてのことだ。これが察せられないようでは後が思いやられる。
「人間の三大欲求ですね。食欲が満たされたら、次は睡眠でしょう。さすがに三つ目のヤツは……」 「ご名答。手分けして振り分けに当たってくれ」
「はいっ、わかりました」
敬礼して去ろうとする大尉を呼び止める。
「臨機応変に。なんでも私まで許可を得に来なくて良いから。そんなことをしていたら三〇〇万人中二〇〇万人は徹夜だ」
今夜の寝場所が知らされたようだわ。
「こちらの部屋になります。ご案内はできませんが」
言葉と一緒にカードキーが差し出された。ああ、ホテルが提供されたのね。部屋番号が分かれば案内はなくても平気よ。 廊下に案内図もあるんだし。
母と二人で一部屋、しかもツインルーム。部屋は広くはないし、壁も薄いけれど、バスルームもあるわ。
「早く休みなさい」
「ええ……でも、何だか隣が騒がしいの」
両側の壁に接してベッドが置かれている。部屋の中程にいるとそうでもないけれど、ベッドに横になるとがやがやと声が聞こえてき
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