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「でも……」
 この少尉さんには泣いている子供の声が聞こえないのだろうか?
 乳幼児でも年寄りでもない私と母を優先する必要性が、この状況下であるとまだ本気で思っているのだろうか。
「どうしたんだ?」
 あら、この人は確か……
「あの……食事の用意ができたので」
「なら早く案内するんだ。おなかが空いたと泣いているじゃないか」
 動かないわたしたちに困っている少尉さんをその場に置いて、彼はすたすたと子供の方へと歩いていく。
「待たせてすまなかったね。なんせ人数が人数なもので……さあ、食事に行こう」
「うん」
 腰を屈めて男の子の肩に手をやると、赤ん坊を抱いている母親も一緒に促している。
「赤ちゃんのミルクもありますからね。さあ、子供とお年寄り、それから女性を案内して」
 そうよ。順番があるとすればそれが正しいわ。
 軍人にしては線が細くて頼りなさそうだの、とにかく中尉だなんてそんな若造で大丈夫なのか、軍は本当に我々を帝国軍から護る気があるのか、などなど散々なことをみんなに言われていた中尉さんを、わたしは少し見直していた。     


 三〇〇万人の民間人───文字にしてしまえば一行だ。
 しかし生きている三〇〇万人は食事をするし、眠る場所も確保しなければならないし、トイレも必要だ。
 まだ直接攻撃を受けたわけではないから、負傷者がいないだけ良かろう───などと思う余裕がないのが本当のところだ。もちろん、口が裂けても言えることではない。
 とにかく軍船でも民間船でも、三〇〇万人を乗せて脱出できるだけの船を用意しなければならない。
「中尉、XXブロックで食事が足りないと騒ぎが起きています」
「中尉、REブロックでトイレが詰まったそうです」
「中尉、家族とはぐれてしまったという老人が来ています」
「中尉───」
「うるさい! 一食抜いても死ぬわけじゃないし、トイレは隣のブロックのを使用させろ。迷子の管轄はここじゃない」
 しまった、と思ったが遅い。家族とはぐれたという老人が怯えて私を見ていた。
 私の声が特別大きいわけではなく、本部の場所が悪いのだ。
「大丈夫ですから。ええ」
 何が「ええ」なのやら。笑顔を見せても時すでに遅し、だ。
 軍隊には統率が必要だし、命令は上から下へ伝えられるべきではあるが、子供だって考えればわかるようなことをいちいち私に報告しにくる。
 いや、彼らが悪いわけではない。
 これまでそれを徹底させられていたからだ。上官の指示を仰がずに動いて、こっぴどく叱られてきたのだろう。
 時と場合により、各自の判断で迅速に動くことも必要だが、なんせ今回は不測の事態だ。対民間人のマニュアルはあるが、戦争難民でもなく、また三〇〇万人というのは……
 すべてにおいて桁違いなのだ。
 軍
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