サンドイッチ
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いが、今ばかりは自分の階級が中尉なことを少し恨む。
私より上の階級の者がいないわけでもないのに、三〇〇万人の民間人は中尉が責任者では自分らが軽んじられたと思っているだろう。
四の五の言っても始まらない。
帝国軍がこのまま退却する確率は極めてゼロに近い。脱出用の船はかき集めればどうにかなるだろうが、艦艇は二〇〇隻、将兵は五万で、民間人は三〇〇万人。
問題はこの事実だ。
いくら「心配しなくていいのよ」と言われても、目を閉じているわけでも、耳を塞いでいるわけでもないのだから。右往左往する人々や、様々な声はどうしても耳に入ってくる。
脱出用の船の割り当てがあるというので集められ、待機するように言われて何時間経ったのだろう。「いつ脱出させてくれるんだ」
「うちに忘れ物をしたんで取りに帰らせてくれんか。大切な形見なんだ」
「ぐずぐずしていて帝国軍に攻め込まれたらどうしてくれる」
荷物の持ち出しは厳禁で、身の回りの物だけ、鞄一つだけにするように言われた。旅行中のわたしは最初から荷物が少ないから良いけれど、急かされて荷造りしたたった一つの鞄の中に、本当に持ち出したい大切なものが全部入っているわけはないもの。
まだ騒いだり文句を言える人は良い方だと思う。良いというか、余裕があるわ。待ち疲れて床に座り込んでいる人も多い。
「ミセス・グリーンヒル。昼食をどうぞ。お嬢さんもこちらへ」
わたしはこれがどうも好きになれない。
様々な箇所で、わたしはドワイト・グリーンヒル中将の子女として特別な待遇を受ける。
官舎も広いし、今回母についてここに来る民間船の中でも「ミセス・グリーンヒルとそのお嬢さん」と呼ばれ、良い席で他の乗客よりも良い食事を提供された。
父親が軍人だから、中将だから。父も何にもせずに今の階級についたわけではないから、父が受ける待遇には何も言わない。
でもわたしは何もしていない。
グリーンヒル中将のお嬢さんは、わたしの名前ではないわ。
母を悲しませたくはないから、これまではそう呼ばれても返事をしたけれど。子供ではないから愛想笑いくらい返したけれど。
わたしよりも小さな子供がおなかが空いたと泣いているのに、どうしてわたしが先に食べられるの? わたしだって空腹だけど泣くほどじゃないわ。まだ我慢ができる。
「わたしよりも、あそこで泣いている坊やに食事をさせてあげて。いいえ、あの子だけでなく、小さな子供やお年寄り全員に」
どうしてそんな不思議そうな顔をしているのかしら。わたしの言ったことはそんなにおかしい? 子供とお年寄りが優先って、学校でも習うし、乗り物の中を始めとしてあちこちに書いてもあるじゃないの。
わたしはまだ未成年で、保護者も一緒にいて、年齢としては子供だから?
「後でけっこうです
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