王の荒野の王国――木相におけるセルセト――
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繋ぐ渡り廊下で呼び止められた。振り向くと、ヴェール越しの視界の先に若い男女が立っていた。
「ビョーサーだ」
男が言う。隣の女も名乗った。
「レプレカよ」
気配で、いずれも魔術師だとわかった。サルディーヤは静かに答えた。
「サルディーヤだ。その不愉快な呼び方はやめていただきたい」
「喋り方までニブレットの生き写しだな」
「どうやら性格もね」
サルディーヤは二人の顔を交互に凝視した。二人の言に苛立ちを覚えたが、彼は冷静だった。感情というものが、自分の中にはさほど無いようだ。もっとも、それは生まれて間もないため自我が弱いからだとレンダイルは言う。感情はこれから育つだろうと。思考力は十分にあった。魔術の才も知識も、ニブレットから引き継いでいる。眼前の二人にも引けを取らない自信と余裕があった。
「それより、この塔は現在私とレンダイル以外の一切の立ち入りが禁じられている筈だが」
二人は強力な保護の魔法を受けている様子だった。気まずそうに目配せしあう。
「ちょっと、あんたを見てみたかっただけさ」
「ならば用件は済んだだろう。早々に立ち去るがいい。万一余計な物を目にする事があれば、レンダイルも容赦はすまい」
淡々と語る様子に不気味な物を感じたのか、二人は表情に動揺を滲ませた。
「あんたこそ、ニブレットには気をつけろよ」
去り際、ビョーサーが言った。
「どういう意味だ」
「あの姫様が、死後に自分の地位と役職をやすやすとあんたに譲るとは思えないね。姫様の魂にとってあんたの肉体は最高の器だ。乗っ取られないよう、あいつが死ぬ前に、自我を鍛えておくことだな」
渡り廊下にサルディーヤを残して、二人の魔術師は去って行く。
「私はサルディーヤだ」
ビョーサーやレプレカとの会話を、ニブレットは知らない。それゆえ自分はサルディーヤであると、女の体の中の自我は考える。
「勝ったのは私だ。私はサルディーヤだ!」
死せる肉体は空を仰ぐ。月も星も飲み干して、雲が広がっていた。
いつかニブレットを殺さなければならないと思った。サルディーヤは。その日から。この自我を守るために。得た体を守るために。その決意が自我を固め、また自我が決意を固めた。
サルディーヤはニブレットの為に生まれさせられた。サルディーヤの肉体はニブレットの為にあった。
しかし、逆転した。サルディーヤが戦場で彼女を殺し、蘇らせてから。
ニブレットを蘇らせたのは、サルディーヤがサルディーヤの死後に利用する為だった。ニブレットの肉体はサルディーヤの魂の由来だ。覚えている。彼女が目論んだように、彼女を利用しようと。その為に、ばらばらになったニブレットの体をかき集めた。サルディーヤがニブレットの復活を目論んでいる事は、聖王の耳にも入った。聖王は、ブネがレレナから授かっ
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