王の荒野の王国――木相におけるセルセト――
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増えた人間は? できれば見せて頂きたいのですが」
「もういない」
問いを聞いたカチェンの目が淀み、目の下に、隈に似た赤い縁取りが現れる。
「だが、君が見たいと望むなら、分魂術の成功の証はある。墓を教えてやる。暴くがいい。 恐ろしいものを見るぞ」
「や、結構です」
自分たちに下される命令を、既に皆が充分に予測している。カチェンはそれをはっきりと言った。
「この中から代表で一人、分魂術を受けてもらう」
四人は重い気分で沈黙する。連隊長は続けた。
「陰陽と調和の神レレナの御名において行われる術だ。男からは女の、女からは男の、魂を分け与えられた新しい肉体が生まれる。新しい魔術師だ」
「『この中』というのには、私も含まれるのか?」
カチェンが目をくれる。同時にレプレカがニブレットを睨んだ。
「どうも、自分だけは特別だと思っている奴がいるようだな。お姫様とは気楽なものだ」
「そう思うなら、代わってやってもいいんだぞ?」
ニブレットが挑発的な笑みを浮かべると、レプレカは舌打ちして顔を背けた。
「当たり前だ。この場にいる以上、王女ではなく我が連隊の魔術師として振る舞ってもらうぞ。それは私も同じだ。慰めにならんだろうがな」
カチェンが机から、五枚の紙切れを出した。四枚が白で、一枚が赤。小箱に紙切れを入れ、激しく振った後、机に置いた。
「一人ずつ、紙を引きに来い。順番はお前たちで決めろ。私は余りもので構わん」
四人の魔術師は互いの顔を見あった。一番若いビョーサーが、まず前に出た。細く開いた小箱の隙間に手を差し入れ、その手を固く握りしめて戻ってくる。
次にレプレカが紙を引いた。彼女の顔は蒼白で、手は震えている。
コンショーロとニブレットは顔を見合わせた。コンショーロは、顎で、先に籤を引くよう促した。そして、宣言通りカチェンが最後に紙を引く。
全員で、一斉に手を開いた。
赤い紙は、ニブレットの掌中にあった。
今、ラピスラズリの荒野には、一人の人間が蹲っている。
「勝ったのは私だ」
薄い革の鎧にマント。風になびく赤い長い髪。
「私はニブレットだ」
若い女は縫い目だらけの体で、荒い呼吸をしていた。死したる体は魔力の熱を湛えている。マントを脱ぎ、革鎧も外して、衣服をはだけた。そうしながら、取り戻した筈の過去をゆっくりと反芻した。サルディーヤが生まれる前の記憶があった。それゆえ、自分はニブレットであると、女の体に宿る自我は考えた。
サルディーヤはニブレットの死後、将校としての任を引き継ぐために作られた。ニブレットが健在であっても、後進の魔術師として十分に役に立つ。
ではサルディーヤは何故、ニブレットを殺したのだ?
「あんたか、ニブレットの分身って」
サルディーヤは、レンダイルの二つの石塔を
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