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小噺
第二章
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「広島生まれでして」
「広島ですか」
「呉です」
 そこだというのだった。
「呉で港で働いてましてね」
「港ですか」
「まああれです」
 ここで笑顔になった内山だった。そうして己のことを話すのだった。
「やくざなんですよ」
「やくざなんですか」
「はい、そうなんです」
 明るい笑顔で話す彼だった。
「実はやくざだったんですよ」
「そうだったんですか」
「驚きました?」
 気さくな笑顔での言葉はその筋の人間の言葉には思えなかった。それにしてはとても温厚な、そんな顔であったのである。彼が見る限りはだ。
「わしがやくざだってことに」
「そうですか。やくざ屋さんも戦争にですか」
「やくざっていってもあれですよ」
 ここでさらに言う彼だった。
「仕事はちゃんとしてます」
「そうなんですか」
「港で貨物の運搬をしてまして」
「ああ、貨物の」
「呉のやくざは元々そっちの仕事なんですよ」
 そうした仕事での人夫の斡旋等も扱っていたのである。神戸を拠点とするある組にしろ元はそうであったし江戸でも最初からそうした人間がいた。
「それでなんですよ。港でね」
「それでなんですか」
「はい、それで円満さんは落語家ですよね」
「そうです」
 笑顔で話す彼だった。今二人は隊舎にいる。そこでそれぞれのベッドの上に胡坐をかいてそのうえで話をしているのであった。
「それは前にお話しましたよね」
「ええ。落語家が戦争にですか」
 今度は内山が意外な顔になる番だった。
「それはまた」
「いえ、私もですね」
 自然と落語家の口調になる彼だった。身振り手振りもだ。自然にそんな動きになってそれで話すのだった。まさに落語家が天職だった。
「あれなんですよ」
「あれとは?」
「戦争に行くとは思ってませんでした」
「今はそういう時ですからね」
 だからそれは当然だという内山だった。
「誰もがお国の為に」
「ええ。そうですよね」
 そういう時代だったのだ。この戦争は誰もが支持し戦っていた。そういう戦争だったしそういう時代であったのだ。それは否定できない現実である。
 だからこそだった。彼等も今ここにいるのだ。確かに赤紙で来たのであるが。
「日本が勝つ為に」
「その為に」
「頑張るとしますか」
 内山はここでも気さくな言葉を出した。
「本当に」
「そうですね。じゃあ明日も」
「はい、やりましょう」
 こう誓い合う彼等だった。その日から二人の付き合いがはじまった。それはかなり親しいものであり台湾での日々を楽しく過ごしていた。
 戦局は移ろいそれは次第に日本にとってよくないものになってきていた。台湾沖にま
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