変わらない黒
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しい……じくじくと苛む悪感情が、彼らの脳髄を焦がしていく。
その兵士達の最中で、小さな少女が黒い羽扇を振るっていた。
冷たい眼差しは何を映すか。どれだけ戦を読み解けるか。自分達だけでは足りない力を補ってくれる少女のおかげで、感情を曝け出しつつも彼らはまだ一己の部隊として戦える。
一つ振っては誰かの為に。
一つ薙いでは平穏の為に。
一つ煽いでは白の為に。
舞の如くひらひらと揺れる黒い羽だけが、今の彼らが従うモノであった。
曹操軍が用いているのは、多数の部隊が独自攻勢に転じている難しい策ではあるが、どれもが研ぎ澄まされた部隊故に連携は問題なく。
時間を置いて、戦場はまた一つ醜悪な色を濃くした。
憎しみに燃えるのは白馬義従だけでは無い。
金色の鎧、紅の張旗、腕に巻かれた黒の布……そして手に持ちし槍には、その全てに殺された袁家の兵士達の生首を突き刺していた。
お前らはこうなるのだと、その部隊の兵士達は口を引き裂いて嗤っていた。人間の醜悪さがまざまざと表される行いに、敵は慄いて震えあがる。
残虐で、容赦なく、非情で残忍なその部隊の名は張コウ隊。感情の線引きも理性の鎖も外された烏合の衆にして、泥沼の戦場に於いてただ多く殺す事に特化した元袁家の主戦力。
何故裏切ったと怒る声にも、仲間だったじゃないかと訴えかける声にも、張コウ隊は聞く耳を持たない。
歯向かえば、立ちふさがれば、逃げようとも……殺すだけ。恐慌状態に陥った先陣は収拾がつかず、彼らが最も得意とする血みどろの戦に早変わりしていく。
時間を置いて、袁家を絶望に落とす部隊がまた一つ、戦場に姿を現した。大多数の袁家の兵士は彼らの姿を見て恐怖に突き落とされることとなった。
†
この時をどれほど待っていたか……空を引き裂く程の雄叫びと共に、私の指示を以って兵士達がまた駆けて行く。
最終局面で決戦となった場合、組み上げる戦絵図は決められていた。
十面埋伏によって行う多彩な兵種と部隊での多段攻撃。それが曹操軍の軍師が出した結論。
皮肉にも、あの時に彼と私を追い詰めた策を改良して袁家を潰す事になったのだ。
白馬の復興は今は投げていいと伝令があった。再び燃やされるとしても全ての憎しみを袁家に集めるからと……華琳様は民の安全よりも戦を優先した。
それが正しい。劉備さんには出来ない遣り方。まるで乱世の縮図に思える遣り方。どちらもに手を回すよりも、より早く戦の終結を……この乱世と同じように。
ズキリ……と胸が痛んだ。
彼なら、きっと同じようにしただろう。彼と華琳様の思考は同じだ。
効率を求めて最大限の利を得ようとする。救う命の基準は数と質を天秤に掛けて量られる。二人共そこに
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