王の荒野の王国――木相におけるセルセト――
―4―
[3/4]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
う声でブネが呼び止める。そうすれば、詫びの一つでも口にすると思っているのか。アセリナは震えたまま、顔を上げもしない。ニブレットはふと、オリアナを愛人の座に置くにあたり、反対する侍女を三人斬り殺した事を思い出した。
「ただ今の私の行為が許されざる事ならば、儀式は成功しないだろう。何と言っても貴様の神レレナの名のもとに行われる儀式であるからな。どうだ、ブネ。儀式が失敗し私が死ぬるを願うか?」
残忍な笑みを残し、ニブレットはオリアナを従えて庭を後にする。
「見ないのか」
サルディーヤが問う。ニブレットは黒曜石の手鏡を握りしめ、ラピスラズリの荒野に敷かれた敷布に座したまま硬直していた。
レレナ、そして分魂術という言葉が頭の中に渦巻いていた。レレナ。陰陽と調和の神。陰陽。分魂。男と女。ニブレットはサルディーヤを凝視して、口を開いた。
「私の魂を返せ」
サルディーヤはまた、癇に障る笑いを静かに唇に浮かべた。
「嫌だと言ったら?」
「腕ずくで返してもらう」
「無理だ。君は私の名を知らない」
「そんな事が関係あるものか。もとはと言えば、貴様は私じゃないか。レンダイルの分魂術によって、貴様は私の魂を分け与えられた。その影響により私はしばらくの間立ち歩けぬほど力を落とした」
「私がもともと君であったとしても、術師レンダイルの名づけによって私と君は完全に分かたれた」
「貴様は私だ」
ニブレットは言い募る。
「その真の名前ごと、私に還るがよい。さあ、私の命の手綱を私に返せ」
「そこまで言うのなら」
サルディーヤの声に、楽しげな響きが混じる。
「そこまで言うのなら、ニブレット、君は誰なのだ?」
ニブレットは敷布を踏んで立ちあがった。
「私はセルセト国第二王女ニブレット、貴様の作り主だ」
背後で魔力が渦を巻き、緋の界からの力が迸り出るのを感じた。
「レレナの名のもとに陰陽は調和する。記憶を返してもらうぞ!」
サルディーヤが素早く立ち上がる。彼の背後で紫紺界の魔力の道が開いた。雷鳴が轟き、迸る閃光がニブレットを襲った。ニブレットを守る緋の界の炎がサルディーヤに襲い掛かるのと同時だった。地が割れ、雲が乾き果てるほどの激しさで魔力がぶつかりあう。混沌たる紫紺と緋の魔術の世界を、二人の魂は落ちていった。
「返せ」
どことも知れぬ空間で、ニブレットは落ちてゆくサルディーヤの胸倉を掴む。
「貴様の魂を喰わせろ!」
己の、長い、赤い髪が視界を遮る。空いている方の手で髪を払った。そうしながらも、背後から己の体を通過して流れこむ緋の界の炎を制限しようとはしなかった。サルディーヤも同じであった。稲妻が牙となり、ニブレットの五体に食らいつこうと狙っている。
ニブレットはサルディーヤの顔を隠すヴェールをはぎ取った。
ヴェー
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ