第140話 呂岱士官する
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海陵酒家を出た孫権と甘寧は大通りに向けて来た道を進んでいた。甘寧は周囲を伺い孫権に声をかける。
「蓮華様、先ほどの飯屋で変な男がいました」
「変な男?」
孫権は歩きを休めることなく視線だけ甘寧に向ける。
「はい。店の奥から私達の様子を伺い、私が視線に気づき見ると驚いた表情で姿を消しました」
孫権は悩ましい表情で頭痛そうに右掌を額に当てた。その様子を甘寧はしばし黙って見つめた後に口を開いた。
「蓮華様、先程の男を今夜にでも殺してきましょうか?」
甘寧は真剣な表情で孫権に聞いてきた。
「必要ないわ。思春、くれぐれも余計なことをしないようにして頂戴」
甘寧の言葉を聞いた孫権は慌てて甘寧に釘を刺した。
「わかりました」
甘寧は孫権の命令に素直に従った。孫権は安堵の溜息をついた。
「思春の見た男は多分だけど孫家の人間の顔を知っているのかも。私も含めて母上姉上も長沙の街中を普段から歩きまわっているし、一度でも長沙に行ったことがあれば私のことを知っていてもおかしくないわ」
「今回の旅はお忍びでは? やはり」
甘寧は怖い表情に変わり、今来た道の方角に視線を向けた。
「思春! お願いだからやめて頂戴!」
甘寧の様子を見て孫権は慌てて大きな声で甘寧を制止した。
「蓮華様、差し出がましいことを考え申し訳ありませんでした」
「思春、あなたには説明しておいた方が良さそうね。孫家の評判は南陽郡ですこぶる悪いの。発端は劉荊州牧が荊州に来る前に遡るのだけど、当時の荊州刺史は王叡。この人物を母上が殺したの」
甘寧は孫権の告白に驚いた表情に変わる。
「元荊州刺史は悪徳官吏だったのでしょうか?」
「そうであれば苦労ないわ。善政とまではいかないけど無難な治世を行っていたわ。母上は当時王叡と対立していた武陵太守曹寅の檄文に従い王叡に奇襲を加え誅殺したのよ」
蓮華は深い溜息を吐くと頭を項垂れた。
「炎蓮様は命令に従っただけでは?」
「建前はそうでしょうけど。母上は王叡に小物扱いされていたことを日頃から恨みにいだいていたのは周知の事実。あの性格だから誰もが知っていたことなの。その上、大義もなく私戦で刺史を奇襲し誅殺。この一件で南陽郡での母上の評判は最悪」
再びため息をつく蓮華を横目に甘寧は沈黙していた。益州で揉め事を起こし、彼の地では生きていけなくなった彼女としては孫堅の暴挙に対して何か言う資格はないと思っているのかもしれない。
「そういう訳だから、ここ南陽郡で極力問題は起こしたくないの。罪無き市井の者を殺めたなんて噂が立つだけで『これだから孫家は』と風評が一人歩きしかねない。だからお願い。思春、余計なことはしないで。これ以上、悪評が広まると文官の
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