第140話 呂岱士官する
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するように言った。正宗はさっさと孫権を追い返したいのだろう。
「実は」
孫権は言いかけて途中で言い淀んだ。
「『実は』何なのだ?」
正宗は薄い笑みを浮かべ孫権に先を言うように急かした。
「実は家出しました」
「家出のう」
正宗は間延びした声で言った。明らかに孫権の言葉を信じていない声音だった。燕璃も正宗と同じく信じていない表情だった。
「家出であれば、私はお前の母にお前の居場所を知らせるのが役目と心得るが。どうだ?」
正宗は孫権に尋ねた。
「それだけは。それだけはお許しください!」
孫権は平伏したまま正宗に必死に懇願してきた。彼女は公事で南陽郡に出向いたのに家出として彼女の母に連絡されては困るのだろう。彼女の母・孫堅に孫権の意を汲んで阿吽の呼吸の対応することを望むのは酷な話というものだ。直情径行の孫堅であれば「家出? 人材募集で南陽郡に行ったんだけど」とか平然と言いそうだ。
「家出の理由を聞かせて貰えるかい?」
燕璃は面倒臭そうに尋ねた。孫権も周囲の人間の話す声音から自分の言葉が信用されていないことを理解しているのか、幾分肩を落としているのが傍目から見えた。
「ええと」
孫権は口籠ってしまった。痺れを切らして冥琳が口を開く。
「孫仲謀、家出など虚言であろう」
冥琳は確信部分を迷わず抉るように言った。
「嘘ではありません!」
孫権は声高に否定した。
「では理由を言ったらどうだ。言えない理由なのか?」
冥琳は胸を強調するように腕組みしながら孫権を観察するような視線を送った。
「実は母が無理矢理に許嫁を決めてしまい。納得できずに家出してまいりました」
「目出度い話ではないか」
冥琳は薄い笑みを浮かべ喜色の篭った声音で孫権に言った。彼女の表情からは言葉と裏腹に孫権の拙い嘘を面白がっているように見えた。
「許嫁は私と歳が五十も離れた老人です。余りに酷い話です」
孫権は三流女優のように棒読みだった。話す内容が内容だけに感情が籠りそうなものだが、それが一切感じられない。当然のことながら場に居合わせる者達は白い目を向けた。
「わかったよ。私は三週間後に正宗様に士官する。それまででいいなら店で雇ってあげるよ」
燕璃は痛々しい孫権を見かねて声を掛けた。彼女の言葉に面食らった表情を返すのは正宗だった。正宗は「お前は何を言っているのだ!?」と抗議の視線を燕璃に送っていた。燕璃は正宗の視線に申し訳なさそうに軽く会釈した。正宗は苦虫を噛み潰したような表情で孫権を凝視した。
「店主、ありがとうございます! このご恩一生忘れません!」
孫権は頭を上げ立ち上がると店主の方を向くと頭を軽く下げ礼を
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