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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第五十六話 朱に染まる泉川(下)
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容易かった事と龍州軍の夜戦能力が低い事、そしてなによりここで脱出できなければ後がないことから決断された苦肉の方策である。
 だが、導術を酷使すれば脱出後に北領鎮台の二の舞を演じかねない
「導術の消耗を覚悟しなければなりません。今日は導術兵達を総動員しております。
明日からの統制が不安ですが」
 司令部付きの導術将校が苦い顔をして言った。
「そこを考えるのは私の仕事だ」
 草浪中佐は鋭い目で砲火の飛ぶ先を眺めている。
「小半刻後に突撃を行う、負傷兵の輸送準備は?」
 そう言いながら参謀達は一時的に司令部を移した掩体壕へと向かうべく踵を返した
 兵站次席の有坂が答える。
「軽傷の者は我々に同行させます、動けない者は余った行李に乗せて史沢まで搬送、その後は通り第二軍と合流させます、東州経由で皇都に送れるかと」
 本来ならば放置してもよいのだが、今度はそうもいかなかった。
「糧秣庫も持ち出せぬ分は燃やします、弾薬も言うに及ばず」
 有坂が戸惑うようにしているのを見て取った草浪が鼻を鳴らした。
「言いたいことがあるなら言ってみろ」

「いえ、よりにもよって州都で北領の再現をすることになるとは、と思っただけです」

「軍施設がある大都市だからな、仕方あるまいよ。北府の軍需物資が敵に渡ったことで転進による被害が拡大したのだからな」
 龍州軍司令部の前に三人が立つ、近衛が作った道へと辿り着くために



同日 午前第一刻半 泉川西方 〈帝国〉本領軍 第9銃兵師団作戦担当戦域
近衛総軍後衛戦闘隊 新城直衛少佐


 新城直衛少佐がその連絡を受けたのは三度目の突撃を終え、部隊の集結を行っている最中であった。

「大隊長殿、龍州軍司令部より導術連絡です。
発 龍州軍司令部 宛 近衛衆兵第五○一大隊本部 
貴官ラノ救援ニ感謝ス、我ガ軍ハ西進ス、以上」

「よろしい、僕たちが道を譲ったかいがあったというものだ」
 すでに新城指揮下の部隊は(藤森が指揮していた部隊も含めて)街道の北方に居る。
いかに導術連絡があっても何もかもが混乱した(混乱させた)夜の戦場では誤射が起きる可能性が無視できないからだ。下手をすれば互いの指揮官が攻撃対象とみなす可能性とてある。

 益山が顔をしかめた。
「史沢を経由して東沿道に出るつもりですな。引き続き大街道を利用できるなら部隊がはぐれる可能性も軽減できます。ですがこれは――」
 もちろん、それと同時に〈帝国〉軍が望む一撃で敵の後衛主力を撃破する機会を提供するのだ、これを機会とみなすのならば執拗な追撃が行われることが予想される、つまりはこの戦いを向こうがどう判断するかという事にすべてがかかっているのだ。そして北方の状況を考えるのならば――
 草浪の目的を理解した新城直衛は無言で
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