第四部五将家の戦争
第五十六話 朱に染まる泉川(下)
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「弾種、霰弾!距離一里!」
砲兵下士官たちの怒声が響く。
平射砲、騎兵砲は一里の距離から再び霰弾を放つ、今度は次々と天幕が薙ぎ倒され、弾丸が破裂する。
「剣虎兵中隊を先鋒に各隊躍進、距離三百!」
龍口湾のように一撃を加えて撤退することはできない、なぜならば浸透突破はその後に有力な軍が野戦軍を撃破しうるから事が大前提となっているからだ。
でなければ彼らが突破し、指揮系統を破壊しようと生還することは叶わない。そしてこの戦闘の目的は傷つき、軍としての体裁を保てているかどうかも怪しい籠城戦を行っていた後衛軍の救出だ。
つまり今なすべきことは奇襲であり、龍州軍の撤退経路となる街道周辺の戦力を一時的にでも掃討する事だ、剣虎兵だからこその無茶ではあるが――運よく砲撃の被害を免れた将兵たちは殺到する猛獣を従えた蛮族達に手際よく屠られていく。この時点ですでに二個大隊が無力化されることとなる。
「小半刻後に各中隊および銃兵隊、再集結。隊形を整えろ、再突撃だ」
導術兵がすぐさま手を組み、意識を集中させる、奇襲による開囲の要諦はいかに相手を動揺させ、組織的行動をとらせないかにある。
「伝令!第一・第三中隊集結!損耗軽微!」
「第二・第四中隊本部より導術連絡、我ラ損耗軽微ナリ」
伝令兵と導術兵の報告に新城はうなずき、ゆっくりと前に出る。
黒衣の近衛兵達はどうにか隊形のようなものを作り上げている、泉川方面からも銃声と悲鳴、怒号が響いている。
――何もかもが動き出している、歩みを止めれば誰も彼ももこの大地を染めあげ染料となるしかない。政治の気分のまま来た連中も、己の愚かしさの果てに追い詰められた者達も、そうした連中の都合のままに引き摺り回されている兵達も。
新城直衛は笑みを浮かべたまま兵達の前に立ち、そして鋭剣を引き抜いた。
同日 同刻 泉川 龍州軍防御陣地
龍州軍戦務主任参謀 草浪道鉦中佐
龍州軍はこの瞬間に最後の切札を切った――とは言っても誰かが天才的な閃きを見せたわけでも、泉川に新兵器が隠されていたというわけでもない、だがこの時まで〈帝国〉本領軍――否、東方辺境領軍を含めた〈帝国〉軍が知り得なかった事をやったのだ。
「龍爆さえなければもう少し効果があったのだろうが――残った砲を掻き集めた甲斐があるな。
龍口湾でも行わなかった導術観測つきの夜間砲撃だ、敵の不意を衝くには良い手です。
具申したあの大隊長代理も正式任命してやりましょう、昇進の推薦をしてやってもいい」
熱田作戦次席は満面の笑みを浮かべて言った。
草浪といつもの衆民参謀二人は夜間砲撃の効果をその目で確かめるべくどうにか残存砲兵部隊を掻き集めた陣地にいた。
防衛戦を続けている事で敵の配置を事前に把握しており導術観測が
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