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方向に分岐した力の流れを追うとしよう」
「よかろう。せいぜい背後に気を付けて進む事だな」
明らかに嘲笑とわかる笑みを声もなく唇に乗せ、サルディーヤは馬を止めた方向に、黒いローブを翻して戻って行った。
ニブレットは一人、前進した。野営地を抜けると、地を覆う塩も減じ、景色は元通りの荒涼とした様を取り戻した。
暫く歩くと地を這う石化した草が現れ、前進が困難になった。ニブレットは生前身につけた馬さばきで、平らな足場を探しながら進む内、その草がもともと野苺であった事を見て取った。
悪くない光景だと、ニブレットはささやかな愉悦を覚えた。
「ラピスラズリの荒野には、ラピスラズリの苺が実る」
草地を抜け、窪地に出た。
見下ろす窪地の底には、石化した絞首台が聳え立っていた。脱走兵の処刑にでも使ったのだろう。三本の縄が、先端を輪にしたまま、二度と揺らめく事もなく残っていた。点々と残る塩が、ラピスラズリを汚している。何かの気配を感じ、ニブレットは額に意識を集めた。背後で緋の界と現世を結ぶ通路が開き、魔力が体に流れこむ。その魔力で以って、ニブレットは見えざる者たちを見た。それは、黒く醜い小人に姿を変えた地霊たちだった。処刑台を取り囲み、踊っている。
人間は大地を流血で汚し、森を焼き、川に死の脂を浮かせる。それゆえ地霊たちは人間を憎む。地霊たちは甲高い声で騒ぎ、彼らの言葉で喜びを分かちあっている様子だった。
これに似た光景を、どこかで見た事があった。
絞首台と、人の死を喜ぶ者。
ニブレットは目を閉じ、更に意識を額に集めた。
頬に吹きつける粉雪を感じた。王宮前の広場が見下ろせる。
ニブレットは城壁の上に立っている。
広場には絞首台が建てられていた。
女が吊るされ、見世物にされている。
第二王妃イヴィタ。正王妃ベリヤが実妹。処刑台に至るイヴィタの暗い道は十年前から始まった。
娘盛りであったブネの生誕日、イヴィタは祝いにカナリヤを贈った。人に馴れたカナリヤであった。それはブネによく懐いたが、ニブレットが半ば強引に捕まえると、嫌がりニブレットの唇を噛んだ。唇から流れ出た血。ベリヤは逆上し、カナリヤの首を捩じって殺し、その場でイヴィタを面罵した。
同じ年、ニブレットの生誕日。イヴィタは祝いに深々とした光を放つ、赤い貴石のブレスレットを贈った。当時のニブレットには些か大きかった。身に着けて一日を過ごす内に、手から滑り落ちたのだろう、ニブレットはブレスレットを紛失した。ベリヤは近辺の者を厳しく取り調べるよう警護に命じた。ブレスレットはイヴィタの従者の手荷物から出てきた。
イヴィタの最大の不幸は、これらの出来事とベリヤによる誹謗中傷があってなお、聖王ウオルカンの好色の目から逃れられなかった事だ。手籠めにされ、
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