第七章
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「広島は嫌いじゃないの」
「そうなのね、じゃあ今日は」
「楽しんできてね」
「野球はルールは知ってるけれど」
ここで寿子は雅にこうしたことを言った。
「贔屓の球団もないし選手もあまり知らないけれど」
「それでも観てきたらいいわ」
「皆と一緒に」
「寿子も皆と一緒に遊んできたらいいわ」
「お友達となのね」
「それ自体がいいことだからね」
それで、というのだ。
「遊んできてね」
「それじゃあね」
こうしたことを話してだった、そのうえで。
寿子は甲子園まで行って皆と甲子園の一塁側ベンチに座った。周りの皆は試合を前にして楽しそうに話していた。
「今日勝てばね」
「広島にさらに差をつけられるわね」
「巨人は最下位だし」
巨人には最下位こそが相応しい、日本そして全世界の発展の為に巨人は永遠に最下位であるべきだ。それは何故か、巨人の敗北を見ることで誰もが元気付けられるからだ。巨人が負けると実に心地よいものである。
「広島にも差をつけて」
「それで首位固めよ」
見れば全員、引率者役の友人の母親までもがだった。阪神帽を被って半被を着てメガホンを持ってだ。風船まで用意している。
だが寿子だけがだ、全く何も着けずに持たずに座っていた。それで場の雰囲気にきょとんとしながら言うのだった。
「ええと、私阪神のこともプロ野球のことも知らないけれど」
「じゃあこれからよ」
「これから知ればいいのよ」
これが皆の返答だった。
「阪神のこと、野球のことをね」
「それをね」
「そうなの、だったらね」
それならと返した寿子だった、そのうえで。
試合がはじまり観戦に入った、すると周りは阪神の選手達のプレイに歓声をあげそれで球場が揺れ動く程だった。
しかし寿子は試合を観ていてだ、次第にだった。
広島東洋カープを観てだ、試合の合間にクラスメイト達に言った。
「広島だけれど」
「?カープどうしたの?」
「何かあったの?」
「必死に野球やってるわよね」
その試合ぶりを観ての言葉だ。
「打っても投げても守っても」
「まあカープはね」
「それが伝統なのよね」
クラスメイト達はこう寿子に答えた。
「猛練習で選手育ててね」
「それで試合も必死にするのよ」
「粘って、負けてたまるかで」
「一生懸命な野球なのよ」
「そうなのね、観ていてね」
寿子は赤い帽子の選手達、必死にグラウンドを駆ける彼等を観て答えた。
「応援したくなるわ」
「えっ、阪神じゃなくてなの」
「寿子ちゃんカープファンになるの?」
「阪神じゃなくてなの」
「そっちになるの」
「阪神もいい感じだけれど」
それでもというのだ。
「広島観てるとね」
「応援したくなったのね」
「鯉女になるのね」
「鯉女?」
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