27:ビューティフル・ライフ
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野営の際、安全地帯でのことならば何が起ころうともHPは一ドットたりとも減ることはありえないので、就寝時に全員が寝てしまってもあまり問題は無い。
だが……今回の俺達のように、死神事件という人事絡まる厄介事を抱えている場合は話が別だ。全員が寝てしまっては本末転倒、容疑者に他者への犯行、若しくは何らかの手を打つことを許してしまいかねないからだ。最悪、俺達を安全地帯から押し出してまでの寝込みの強襲を敢行される可能性だってある。
しかし、今日の戦闘の疲弊はかなりのもので、まずは二もなしに休息を摂りたいのは容疑者である彼ら含めた全員の総意であるはずだ。
ゆえに俺達は適当に順番を決め、一時間毎に順番に二人組が起きて、安全地帯の周囲のパトロールと、起きている互いの行動を監視をする事にした。……適当に順番を決めたといっても、この場の容疑者三名が互いに組む、というパターンだけは避けているので、ある程度は安心できよう。少なくとも片方は俺の気心の知れた仲間で、もし何かあればすぐに大声を出すなりして助けを求めるように厳命してある。
そして今では俺とハーラインがそれを担当し……俺は焚き火に手を当てて暖を取りつつも、周囲と容疑者三人のサーチングを怠ることなく気を払っている。
アスナ達は一塊に寝袋並べ仮眠に入り、デイドもその反対側の位置で一人、同じく寝袋に身を潜らせていた。だが、ユミルだけは石柱に背を預ける形で座り込んだまま、斧槍を抱きかかえながら顔を膝の間に潜らせて浅い眠りに入っているようだった。
そして残る一人、焚き火越しに俺の反対側に座るハーラインは、いつの間にか懐から何かを取り出し、手を絶え間無く動かして何かをしていた。手元は揺れ動く火に隠れてよく見えない。
「ハーライン、なにをしているんだ?」
その何かに没頭していたハーラインは顔を上げた。
「……ああ、これかい?」
彼は手に持ったものを掲げ、俺に見えるようにしてくれた。
それは何なのか、一目ではよく分からなかった。
手の平大のただの白い布切れに、黒の細い糸が幾つも縫いこまれ、その先には針が布に刺さっている。言葉では一見作りかけの刺繍のようだが、その縫目は柄を描く事無くただ直線を縫い、端に行き当たれば折り返し、ただ黒の縫目が白の布を埋め尽くそうとしているだけという、描写の欠片もない単調なものだった。
「刺繍か? それにしては真っ黒だし……あ、もしかして裁縫スキルの鍛錬か?」
俺はふと思い出す。そういえばこいつはスキル一覧を見せてくれた際、なぜか裁縫スキルがかなり高かったのだ。よく見れば、黒の縫い目はまるでミシンを使ったかのように精密で規則正しく、非常に綺麗な並びに縫われている。
俺の言葉にハーラインは少し笑った。
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