27:ビューティフル・ライフ
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れたソフトが……SAOだった。そして私達チームは全員この世界に閉じ込められ、元の肉体に戻ることは叶わなくなった」
焚き火に照らされ、端正な輪郭がハッキリ浮かぶその顔は、至って真摯で……
いつの間にか、ナンパに勤しむ優男の彼は、どこにもいなくなっていた。
「当初、私達は錯乱した。命が危ない、という理由からではなく……医学の道に戻れなくなるから、という理由でだ」
「どういう意味だ?」
俺の声にハーラインは、素人の俺に分かりやすいようにしてくれているのか、言葉を選ぶように話す。
「医学の世界は、君達の見えないところで日々目覚しい速度で進歩を遂げているのだよ。故に数日でも勉学を怠れば、必ずその倍以上、医者への道は遠ざかる。我々は、それを最も恐れていたのだよ」
ここでハーラインは、表情をそのままに……僅かに、ごく僅かに顔を伏せた。
「そして混乱を極めた私達のチームはやがて二つに分裂し、半分は早く現実に戻りたいが故に無茶な攻略に挑んで死に、残り半分ははじまりの街で絶望の日々を過ごしている。だが少し前に、その残った者達のさらに半分が、後に集団自殺をしたと聞いた……。今、ある意味で生き残っている、と言えるべきメンバーは……私だけだ。と言っても……私も、もう半分は死んでいるようなものだけどね」
「……半分は、死んでいる……?」
息を呑んだ俺の疑問に、ハーラインはフフッと自嘲的に笑った。
「私は心臓科の執刀医を目指していた。子供の頃から、私は医者になりたいという夢以外に一切の興味を持たず、ただひたすらにその道に邁進してきた。……だが、その夢も潰えた。医学の勉強に二年ものブランクがあるのはもちろんだが……致命的なのが、コレだよ」
眼鏡を吹き終わった布を仕舞い、空になった右手の指を、ぐっぱぐっぱと動かした。
「手が……芸術家やスポーツマンみたいに大事ってことか?」
俺の答えに満足そうに頷く。その仕草に、以前までの自賛的な印象は微塵も無い。
「ご名答。君でも容易に想像はつくだろうが……心臓の手術は、他の臓器の手術と比べても抜きんでて困難を極める。心室の壁の腫瘍を取り除いたり、心室膜や心筋の移植等が主な内容なんだが……それには針と糸の裁縫のテクニックが使われるのだよ。だが……コンマ単位の縫目の誤差が患者を苦しめ、寿命を縮め……最悪、死に至らしめてしまう。現代では精密機械での手術が主流ではあるが、複雑かつ慎重な執刀には医者自らの手による手術が施される。私はその執刀医を目指していたのだが……もう、駄目なのだ」
彼は長く、深い溜息をつきながら、左手にある片縁眼鏡を指先で弄び始める。
「二年間もの長き間、ベットで横になっていた私の腕は、もう以前のようには動か
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