第六章
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「あの浪人さんずっと紐だったって言ってたやろ」
「あの芸者さんのやな」
「それで酒と博打でや」
「借金を山みたいに作ってたらしいな」
「そや、それで借金が洒落になら位出来てや」
それで、というのだ。
「芸者さんに愛想尽かされたらしいわ」
「それで何で心中してん」
「浪人さんが無理に復縁言ってな、それが適わんで」
「ああ、芸者さんをあそこで殺したんやな」
「そや、あそこで復縁頼んだけどどうも完全に縁切られたらしいわ」
そうなtったというのだ。
「それで浪人さん逆上してや」
「芸者さんの喉掻き切ってか」
「そんで自分も腹切ってや」
「油被ってそれを介錯にしたんやな」
「多分断られるの覚悟で芸者さんに会いに行ったんや」
「そんで断られたらああするつもりやったんやな」
「無理にでも一緒に死ぬつもりやったんやろな」
耳にしたことをだ、徳兵衛は話すのだった。
「そやから油も買ったんや」
「自分の介錯の為に」
「そうしたんやろな、腹切ってな」
「そういうことか」
「あれは無理心中やったんや」
徳兵衛は浮かない顔で美代吉に話した。
「別れて借金で潰れるよりはって思ってな」
「嫌な話やな」
「ほんまにな。血塗れになって身体もぐずぐずに焼けてな
「嫌な死に方やったな」
「ああなるらしいわ、そもそも心中ってな」
かつて憧れていたそれの話もした。
「水の中に入っても二人共水膨れになって肌もぐずぐずになってな」
「えぐいものになるねんな」
「そうなるらしいわ、実際ええもんちゃうらしいで」
「一緒に死んでも綺麗やないねんな」
「あの浪人さんみたいにな」
また彼のことを話す徳兵衛だった。
「実際はえぐいみたいやで」
「そやねんな」
「一緒に死ぬよりも逃げた方がええな」
駆け落ちの方がというのだ。
「それよりもな」
「そうみたいやな、死んでもええことはない」
「そういうこっちゃな」
心中のことを話してだ、それが実際はどういうものかわかった二人だった。二人はこの時から心中について肯定的に言うことはなかった。そうして二人で店を切り盛りして子供も出来て幸せに暮らしていくのだった。
無理心中 完
2014・7・26
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