第五章
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「芸者さんと二人でな」
「心中!?あの人が」
「そうしたんか」
「そや、道頓堀の岸でや」
そこでだというのだ。
「ちょっとそこに行けばわかるわ」
「行くか?」
徳兵衛は昨日のことが気になりだ、美代吉に言った。
「今から」
「そやな、店のことは番頭さんに見てもらって」
「すぐに帰るとしてな」
「見に行こうで」
二人でこう話してだ、客の案内を受けてだった。
その道頓堀の外れに行った、小舟が停まるそこでだ。
元木と彼が紐になっていた芸者がいた、芸者は喉を掻き切られ目をかっと見開いて苦しみ抜いた顔でこと切れていた、そして。
元木は何故か身体が半ば以上焼けていた、腹を包丁で切っているがそれがやけに目立っていた。
身体のあちこちが焼けてそこが爛れ嫌な臭いを出していた、その匂いに吐き気を感じながらそのうえで。
徳兵衛は美代吉にだ、こう言った。
「油被ってな」
「そうしてそこから火点けたな」
「ああ、そうしてや」
「死んだんやな」
「自分の身体焼いてな」
菜種油の臭いもした、その嫌な焼けている臭いの中に。
「そうしてや」
「そやから油買ったんかいな」
「自分で死ぬ為にな」
「何ちゅうこっちゃ」
「ほんまにな」
自分の店の油が自殺に使われたのだ、二人共気分がいい筈がなかった。しかもその元木の骸を見れば見る程だった。
吐き気がした、それで美代吉は眉を顰めさせて亭主に言った。
「あんた、もう」
「ああ、ちょっとな」
徳兵衛もだった、そのことは。
「えげつない匂いやからな」
「何や、この匂い」
「肉が焼けてるけど」
「それってこんな嫌な匂いなんかいな」
「死体やしな」
「ちょっとないで、この匂い」
「しかもや」
嫌なのは匂いだけではなかった、それに加えて。
元木の顔も心中した相手の芸者と思われる女の顔も見た、どちらもだ。
苦しんで死に絶望している顔だった、どちらももがいていたのか口を大きく開き舌をこれ以上はないまでに出してだ。
目もかっと見開いている、そして。
血まみれだった、その血の匂いも嫌なものだった。
血が二人の服や身体だけでなく地面まで汚していた、赤黒いそれがべったりとなっていた。そういったものも見てだ。
美代吉はいよいよ我慢出来なくなってだ、徳兵衛にまた言った。
「もう帰ろうで」
「そやな、これ以上ここにいてもや」
「ええことないわ」
心中した二つの死体を見てもだ。
「そやから帰ろ」
「そうしよな」
徳兵衛も吐き気を堪えつつ女房に答えた、そしてだった。
二人はそそくさとその場を後にして店に戻った、二人共何とか吐かずに済んだが嫌な気持ちはそのまま残り。
店に帰ってからそれから三日は暗いままだった。そうしてそれが済んで
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