第六章
[8]前話
「歴代のメジャーでも俺クラスの守備はそうはいないからな」
「今のチームでもそう言われてるな」
「まあそっちのチームはバッティングを選んだからな」
ダックのそれをだ。
「あいつも守備は確かに俺の方が上でもな」
「そこそこ以上だぜ」
ジョンもだ、ダックの守備もいいことはいいと認めている。それでこう言うのだ。
「けれどダイアモンドグラブはな」
「俺しかいないだろ」
「ああ、本当にな」
「去年は怪我してそこからスタメン落ちして受賞出来なかったがな」
「スタメンで出たらか」
「この通りだよ」
ミッキーの笑顔が変わった、明るいものからにやりとしたものに。
「俺はカムバックしたぜ」
「また這い上がってきたか」
「ははは、どん底からか?」
「そこまではいかないか」
「どん底とはまではいかないだろ」
「ベンチ位はか」
「ああ、まだそこまではな」
再起不能と言われたり二軍落ちまではいかなかったからだ。それでミッキーもどん底からかというとそうではないというのだ。
「いかないだろ」
「そうなるか」
「それでもな」
「這い上がってきたのは事実だな」
「ああ、やってやったぜ」
「カムバックだな」
ジョンはミッキーにだ、彼自身もにやりと笑って言った。
「見事な」
「そうだな、じゃあ今の酒はカムバック祝いか」
「そうなるな」
「美味いな」
そのカムバックの酒はというのだ。
「これまで受賞祝いの酒、メジャー優勝の酒もどれも美味かったがな」
「カムバック祝いの酒はどうだ?」
「また違うな」
これまでの祝いの酒と、というのだ。
「別格だな」
「これまで以上に美味いか」
「勝利の美酒は美味いがな」
しかし、というのだ。
「この酒はこれまでのそうした酒以上に美味いぜ」
「それは何よりだな」
「ああ、最高の酒だよ」
飲みつつだ、笑顔で話したミッキーだった。
「これはどんどん飲めるな」
「飲み過ぎには注意しろよ」
「わかってるさ、それじゃあな」
こう応えてだ、実際にだった。
ミッキーは酒を程々にすることも忘れなかった、これまでで一番美味い酒だがそれでもだ。飲み終えてだった。
ジョンにだ、笑顔のまま言った。
「来年も見てろよ」
「そうさせてもらうな」
「シリーズで会おうぜ」
「その時は容赦しないってか」
「覚悟しておけよ」
「ははは、そっちもな」
ジョンも笑って応える、そうしてカムバックを二人で喜ぶのだった。ダイアモンドグラブを取り戻しその守備を再び見せられる様になったことを。
這い上がるチャンプ 完
2014・8・17
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