第五章
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「南のバルカンとかでね」
「ロシアも出て来てるしね」
「それかな」
「けれど北に一旦行くっていうのは」
「北のドイツ帝国も介入して来るってことかな」
「そこまではわからん、しかしすぐにこの国を出るのじゃ」
オーストリアを、というのだ。
「どのみちわし等はジプシー、旅が常じゃ
「たまたまウィーンに長くいるだけだしね」
ロンダもこうした考えだ、ウィーンで商売をしていると儲かるのでいるだけだ。だからオーストリアを出ることには抵抗がなかった。
しかし何処に行くかだ、ロンダの夫がエンヤに問うた。
「それで一体何処に」
「実は遠い西からよい空気が吹くのを感じた」
「その夢で、ですね」
「そうじゃ、遠い西じゃ」
「オーストリアの遠い西というと」
「アメリカかしら」
ロンダは首を傾げさせてこの国の名前を出した。
「あの国は移民をどんどん受け入れてるけれど」
「僕達ジプシーの移民も多いしね」
「だからあそこかしら」
「そうやも知れぬ。少なくともアメリカはもう欧州のどの国よりも豊かじゃ」
「豊かってことはね」
「儲けがいい、それならな」
選択が決まろうとしていた、まさにだった。
アメリカに移住する、すぐに決まった。そうしてエンヤとロンダの家族は一族にも話をして新大陸に向かう船に最初はエンヤの夢の話を信じようとしなかった一族の者達もアメリカにいる方がオーストリアにいる時よりも儲かると言ってだった。乗せて。
全員でオーストリアからアメリカに移住した、そしてエンヤは移住して暫くして死んだ。それからロンダもだった。
年老いエンヤがオーストリアを出ると言った歳になった時にだ、家族にこう言った。
「昨日夢を見たがのう」
「えっ、お祖母ちゃんの夢!?」
「ということは何かあるんだね」
「わしもお祖母ちゃんから受け継いだのじゃな」
その夢見を、というのだ。
「有り難いことに」
「それでその夢は」
「どんな夢なの?」
「うむ、髭の男がな」
祖母にそっくりになった顔で言う。
「海の彼方で剣を振るいジプシーの馬車を襲い中にいる家族を皆殺しにする夢じゃ」
「ジプシーの車ねえ」
「それって」
「わし等じゃな、そして鉄と血を辺りに撒き散らし汚し」
そして、というのだ。
「そこにいる人間も片っ端から殺していった」
「何かよくわからない夢だけれど」
「怖い夢だね」
「何が何かわからないにしても」
「それでも」
「悪い夢だね」
「これは何かが起こるぞ」
ロンダは家族に不吉なものを感じている顔で述べた。
「これからな」
「髭の男ねえ」
「誰のことかな」
「ひいひいお祖母ちゃんがそう言ってアメリカに来たけれど」
「一体」
家族はそう言われても首を傾げさせるばかりだった、だが丁渡そ
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