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王道を走れば:幻想にて
第三章、終幕:騎士騎士叙任式
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う、マティウス」

 言外に人外扱いをしてくるレイモンドに対して、マティウスは喉を笑わせて高い声で返す。

「残念ながら、仕事柄人を殺したり捌いたり下ろしたりする事はあっても、それ自体に興奮を覚える事なんて一度もありませんでしたし、まして食人趣味などっ!低俗と下賎の極み!!魔術の極意の何たるかを追求する高尚たる私が其処まで堕ちるだなんて、それこそ出来の悪い噂ですよ」
「ふん、地獄耳も変わっていないようだな」
「恥ずかしながら、気の短さもね」

 笑みを一層と深める。レイモンドは其処を深く追求する気は起きず、マティウスの言葉を待った。マティウスは笑みをの深みを直しつつ、道化師のように茶化した手付きで馬車の方へ掌を向けた。

「御報告申し上げます、執政長官殿。件の魔獣達の育成、進捗状況はかなり大詰めといった所まで進行致しました。そろそろ、あの怪物を派遣して下さっても問題は無さそうですよ?」
「・・・それが聞けて、安心したよ」
「そうでしょうともっ。最近は物騒ですからねぇ?王都の周辺で殺人事件が頻発しているそうな。道行く商人も宛ら、特に賊徒の連中が次々と屠られていると聞いております。何でも鎌のようなもので立続けに殺されているとか・・・。あぁ、別に唯の信憑性が無い噂話ですからお気になさらず」
「・・・」

 にたにたと実に愉しげに言うマティウスに思わず、レイモンドは目付きを鋭くさせた。この男は人並みに話をする男であるが、魔術師である以上確実性の無い話題は持ち出さない。だが一方で意味の無い言葉や噂話も冗談のように弄する愉悦も持ち合わせている。果たしてこの男が己が裏で行っている企みに気付いているかいないのか、今一判断のしようが無かったのだ。
 
「さて、王都まで来たついでとは言ってなんですが、土産を持って参りました。後ろの駕籠に入っております」

 レイモンドは二台目の馬車へと目を向ける。

「護送途中で起きたりしないだろうな?」
「人間を死に至らしめる程の深い睡眠魔法を放っております。まぁそれでも、後半日も過ぎれば起きるでしょうけど。元が獣ですから、耐性が強いのですよ」
「・・・では、あいつを運ぼうか」
「承知致しました・・・。御者、出発だ」

 マティウスが馬車へと向かう傍ら、レイモンドは門前へ控えさせていた己の馬に跨った。馬車を運ぶ際に人目がつかぬよう、コンスル=ナイトを使って既に人払いは済んである。目的地へと運ぶまでは誰の目には留まらぬだろう。そうでなくては困る。

「・・・」

 己がどんどんと重ねる業の深さを自覚して、レイモンドは躊躇いがちに俯いた。だが馬の鼻息を耳を感じ取って直ぐに顔を上げて、開門された王都の中へと馬を進めていく。後に続く二台の馬車も、その尻尾を悠々とした動きで追っていった。


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