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王道を走れば:幻想にて
第三章、終幕:騎士騎士叙任式
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るとか?」
「ばっ、馬鹿かお前は!我が忠義を捧げるべき御方に些かな嫉妬も抱いておらんしまして其処まで気を許してもらえるなんて羨ましいなんて露一つとも思っておらんぞォッ!!」
「・・・其処まで早口に言われては仕方ありませんなぁ」

 笑みを更に深めるトニアに対して更なる熱き言葉をぶちまけようとした時、宙を裂くようにコーデリアの呼び掛けが飛んで来た。

「・・・アリッサ」
「こ、コーデリア様っ、違いますぞ!私は貴女にそのような疚しい思い等一つたりとも思っておりませぬし、そもそもケイタク殿が私をーーー」
「アリッサ」
「はい」

 波をも立たせぬ静かな声にアリッサは弁明の口を閉ざす。コーデリアは先までの焦燥とは打って変わって、実に穏やかで慈愛に富んだ、小さな笑みを浮かべて彼女に言った。

「・・・少しばかり、彼を寝かせてあげたいのです。引き出しから、『フリディスの香草』を取って下さい」
「はっ」
「トニア。私共は少々遅れると、宦官の方々にお伝えしていただけますか?」
「えぇ。承知致しました」

 トニアはすっと礼をして部屋から去っていく。アリッサはキャビネットの引き出しから小さな木箱を取り出して、コーデリアへと手渡す。蓋を開けて中に入っていた、微塵切りに刻んだ状態の茶褐色の香草をほんの僅か、1グラムにも満たない程度の量を指で摘んですりすりと指の腹で擦っていく。茶褐色の香草が粉末状になっていき、微かであるが自然とリラックスできるようなハーブのような香りが漂ってきた。

「ケイタク様、癒しの薬草です。これを嗅げば、一時間、じっくりとした安眠に就く事が出来ますよ」
「・・・嗅がせて・・・」
「はい。では、失礼します」

 コーデリアは居住いを正して慧卓の頭を己の膝に乗せると、その鼻下へと指を差し出した。慧卓は眠気と疲労に囚われながらそれを吸っていく。瞬く間に薫りの心地良さと後頭部から感じる柔らかさにすっかりと身を奪われた慧卓は、意識が泡のように覚束無くなりつつも、コーデリアに告げる。

「・・・・・・コーデリア」
「はい?」
「・・・いつも、ありがと」
「ふふ、どういたしまして」

 優しげに慧卓の前髪を撫でていく。瞼をゆるゆると落としていった慧卓は、肩を静かに上下させ、鼻孔から息を吐いたり、吸ったりし始めた。コーデリアはその無垢な顔を、目を細めて見詰めている。
 アリッサは目元と口を俄かに引き締めた神妙な顔でそれを見遣りながら、未練を感じさせるような動作で部屋を出て行き、その扉をそっと閉めた。




 騎士叙任式が行われた、少し後の事である。がらがら、がらがら。からから晴れた青空の下、馬車が舗装が行き届いた街道を真っ直ぐに走っていき、後に続く馬車が重々しくそれをなぞって行った。前を行く馬車は至
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