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王道を走れば:幻想にて
第三章、終幕:騎士騎士叙任式
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に、我が挺身は地に命を育む民草のために。願わくば主神は聞き届くべし。我が信頼が、我が護るべき民草を護らん事を。我が武勇が、我が打ち払うべき艱難災禍を打ち払わん事を。我が慈愛が、我が愛すべき人を愛さん事を」

 言葉と共に慧卓はその刀身に近いの口付けを打った。人々は今度こそ、音にもならぬ感嘆の息を漏らした。一切の弱みも感じさせぬ堂々たる言葉には、早くも騎士としての重きに対する理解と厚き忠誠、そして人として全うたらしめる情熱と信仰が感じ取れたのだから。この日を持って慧卓を王国の一員、王国の大人として歓迎する身とあって、之ほど喜ばしき事は無い。
 その思いは国王の立席を持って一時中断された。国王は段差を降りて剣を腰に収めた慧卓の前に立ち、その首筋に拳を当てた。

「頸打ちぞ。気を張るのだ」

 慧卓にだけ聞こえるように国王は言うと、勢い良く腕を振り被り、その首筋に全力の拳骨を打ち当てた。

「っっ!!!」

 痛烈たる痛みに慧卓は歯を食い縛り、思わず身を竦ませてしまうも何とか耐え切った。あの憲兵の蹴りに比べれば小さな痛みである。而してそれは肉体的な痛み以上に大きな意味を持った痛みであった。次にこの痛みを認識する数秒後には、体躯と離れた己の頭部から意識というものが消え去ってしまうであろう。
 ニムル国王は慧卓に視線を合わせて、珍しき事に、明らかな感情を伴って告げた。

「その痛み、決して忘れるでないぞ」
「は、はっ!!」

 慧卓は思わず最敬礼を返した。国王はうむとばかりに頷き、再び玉座へと戻っていった。慧卓も数瞬遅れて踵を返し、元の場所へと戻って行く。

『ジョゼ=ディ=マレチェク、前へ』
「はっ!!」

 次の若者が呼ばれる中、慧卓は胸中にばくばくとした心臓の早鐘を感じており、緊張を和らげるように何度も息を吐いた。人生の中でこれ程までの重圧を感じた事態があろうものか。それは元の世界であれ、況や『セラム』においてもだ。
 何度も何度も緊張を解すように集中していき、なんとかその早鐘を収めて行く。そのリズムが早歩きをした後のそれに戻ったと実感した時には、全ての新任騎士が叙任の儀を終えていた。慌てた慧卓は、演説を終えようとしているレイモンドに意識を向けていく。
 
『これを持って、王国にまた新たな騎士が生まれた。かの者達の更なる精進と活躍を期待し、騎士叙任式を終える』

 呆気なさを感じて放心しかけるが、周りの者に遅れぬよう素早く敬礼をした。雲の陰一つとも窓から注がぬ中、慧卓の新たなる日常は切って落とされたのであった。



 

「格好良かったよっ、ケイタク!!凄く格好良かったっ!!」
「あ、そうでしたか・・・ハハハ・・・疲れたよぉ・・・」

 式典が終わった後の王女の自室。意匠を凝らした調度品に
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