暁 〜小説投稿サイト〜
王道を走れば:幻想にて
第三章、終幕:騎士騎士叙任式
[4/12]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
胸中に心配を覚えながら、ちらと王女を見遣り、一瞬呆気に取られた。宙に浮かぶ蝶々を見るような、惚けた瞳をして頬に赤みを浮かべていた。何処から如何見ても恋慕の何物をも映し出しておらず、アリッサはちくりとした痛みを胸に抱いた。
 レイモンドが段を前に跪く慧卓を見下ろし、そして厳かに言う。

「ケイタク=ミジョー。そなたは異界より顕現した後、万人の目を持って瞠目すべき類稀なる活躍を為して来た。鉄斧山賊団の攻略戦においては、奇策を用いて城門を爆破し、戦の趨勢を我が方へと持ち運んだ。ロプスマにおいては現地の造営官、及び商人ギルドの長と協力し、一大祭事を催して街の振興に尽力した。そしてこの王都においては、聖鐘へと襲来した叛徒を迎撃して臣民を護り、更にその叛徒の一人を見事に討ち取った。その数々、当に獅子奮迅たる活躍である。異界の者は畢竟、王国に栄華を与える事を汝は己の行動をもって示したのだ」

 この場で讃えられた誰よりも多くの言葉によって述べられる慧卓の功績の多さと壮大さに、多くの者は改めて深い感慨を抱く一方で、一部の人々はぎくりとするものがあった。常人では数月、或いは数年で一つ達成出来れば良いものを、この若き青年はたかが一月余りで全てを成し遂げたのだ。この者は軍功にも恵まれ、更には政にも斬新な視線を向けている。宮廷で燻っていた者達にとっては、瞠目する以外に何が出来るというのだろうか。そしてその一部の者に限ってであるが、余裕を持っていた瞳に俄かな警戒心を抱くのも、どうして妨げられようか。
 男達の内情の変化を他所に女性等の情の篭った視線は益々と深くなり、レイモンドはそれを諌めるよう俄かに声量を張り上げた。

「この多大なる功績を讃え、我等マイン王国は、そなたに騎士の称号を授与するものである。汝、謹んでこの栄誉を享け賜るべし」

 近衛騎士等が近付き、彼を立たせて騎士たる衣装を着せていく。足元には金色に光る拍車を、頸には盾を吊るした皮紐を。彼が去った後、高位の神官であろう人物がすすと歩み出てきて、慧卓に一振りの剣を与えた。熊美に渡された物とは対照的な質素な鉄色の鞘である。慧卓は其処から剣を抜いて、神秘的な白銀を浮かべた刀身を披露すると、それを両手でしかと握って眼前に構えた。国王がそれを見て、静粛にして毅然な言葉を告げた。王国の民草を縛り、栄誉と責務の重きを与える、誓いの言葉であった。

「そなた、ケイタク=ミジョーを、マイン王国国王、ニムル=サリヴァンの名の下に騎士と任ずる。民草の守護者たるべく、謹厳実直、威風堂々の心を持ち、その武を弱きのために振るうべし。そなたの剣にこそ、主審の加護ぞあるべし。そなたの盾にこそ、王国の威信ぞあるべし」
「・・・我は誓う。異界より顕現したるこの身命、全てを紅牙の樫のために捧ぐと。我が栄誉は天より照覧したる主神のため
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ