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王道を走れば:幻想にて
第三章、終幕:騎士騎士叙任式
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還と活躍を喜び、讃え、祝うものであり、黒衛騎士団の再結成を宣言するものである』

 近衛騎士等がより緊張した面持ちで彼の背に近付き、そしてマントを羽織らせる。熊美にとって、それは羽根のように軽くも実に久しき重みであり、そして陽射のような温かみのあるものである。騎士が離れるのを期に、多くの者達が思わず感嘆の息を漏らしかけた。
 それは黒き外套である。闇夜のような漆黒の背中に、金の刺繍で飾られた百合の花が輝いていた。それは嘗て多くの王国臣民の脳裏に焼き付けられ、その心を大きく奮わせた、あの黒衛騎士団の紋章であった。記憶の奥深くで煌いていた紋章の輝きが、本来のあるべき所に、その美しさと勇猛さを示しているのだ。
 国王は頷き、執政長官から黒檀の鞘に収まった一振りの剣を受け取り、音も出さずに抜刀する。中空を覆っていた視線が、十字鍔の両刃のロングソードに注がれた。国王は熊美の前に、その剣の切っ先を差し出した。

『そなたは黒衛騎士団の団長として、皆を護ってくれ』
『・・・はっ。黒衛騎士団の武と魂を持ちまして、今一度、王国を身をもって護らせて頂きます』

 熊美はそう言って、剣の切っ先から数センチの場所に誓いの口付けを落とした。国王は剣を鞘に納めて熊美に差出し、熊美はそれを両手で持って受け取った。暫しその鞘を端から端まで眺めて後に腰に差す。熊美は最敬礼をし、さっと踵を返して元の場所へと戻る。元の場所に戻った三者は再び胸に右手を当てて敬礼をし、横合いへとずれていった。
 本来ならばこれにて儀式は終了であるが、今日は違う。もしやしたら、この勲位授与以上に重要であろう儀式が控えているのだから。

『これにて勲位評定を終える。続いて、騎士叙任式を始める。開門せよ』
『開門っ!!!』

 トランペットにも似た形状をしている楽器、トゥベクタによる高らかで勇壮な音楽が奏でられる。重厚なる門がぎりぎりと開いていき、衆目が其処へ注がれていった。
 開かれた扉の向こうからゆっくりと、数人の若人達が歩いてくる。何れも緊張でぎこちない硬直を顔に浮かべつつも、広間に居る誰にも劣らぬような純真さと熱意を内在させていた。鈍色に輝く鎧を羽織り、足を揃えてグリーヴを鳴らす。その若き集団の最前線、皆を率いるようにして慧卓は歩を進めていた。
 傍目から見ても明瞭なる緊張が顔に浮かんでいるが、而して勇士の勇士たるべき気高き歩みを見せており、参列者の男達に一先ずの納得を齎し、女性達の笑みと執心の瞳を集めていた。慧卓等は熊美達が居た場所に立ち止まり、敬礼をする。それを見た後、レイモンドが言った。

『ケイタク=ミジョー、前へ』
「っ、はっ!!!!」

 慧卓は俄かにぎこちなき動きで前へと進んでいく。心配げにアリッサが様子を見ていた。

(大丈夫かしら・・・)

 
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