暁 〜小説投稿サイト〜
先輩の傷
第四章
[1/2]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
「あの、先輩」
「何だ」
「今私の方見てくれましたよね」
「そうしたが」
「はじめて私の方見てくれましたよね」
 笑顔でだ、由紀は彼に言うのだった。
「確かに」
「また言うのか」
「どうしてですか?」
「見たら悪いのか」
「いえ」 
 笑顔で返す由紀だった。
「嬉しいです」
「嬉しい、か」
「はい、とても」
「何で俺といつも一緒にいるんだ」
 今度は彼の方から言ったのだった。
「そもそも」
「それは」
「わかっている、俺のことがだよな」
 また自分の方からだ、慎は言った。
「そうだよな」
「わかっておられたんですね」
「言わなかったがな」
 それでもだというのだ。
「いつも一緒にいるからな」
「通学の時は」
「俺だってわかる」
 通学の時にいつも一緒になるようにしてくればというのだ。
「そうしたことはな、けれどな」
「けれど?」
「俺は駄目だ」 
「駄目ですか」
「そうだ、駄目だ」
「駄目っていいますと」
「あんたとは付き合えない」
 こう言うのだった。
「そのことは言っておくからな」
「それはどうしてですか?」
「言えないがな」
 その理由はというのだ。
「俺はあんたとは付き合えない」
「付き合っている方がおられるんでしょうか」
「いや、いない」
 慎はそれは否定した。
「今はな」
「それでもですか」
「俺は付き合えない、ついでに言うとホモでもない」
 このことも否定するのだった、由紀の友人達が懸念していたがそれはないというのだ。
「ノーマルだけれどな」
「私とはですか」
「あんただけじゃくて誰ともな」
「交際は、ですか」
「出来ない」
 このことをあくまで言うのだった。
「そのことはわかっていてくれ」
「わからないです」
 由紀はその慎にはっきりと返した。
「私ものわかりが悪いですから」
「ずっと俺と一緒に行き帰り一緒にいるつもりか」
「駄目ですか?」
「止めても一緒にいるな」
「そのつもりです」
「なら勝手にしろ」
 慎は既に顔を正面に戻していた、そのうえで由紀に対して言った。
「あんたの好きな様にな」
「有り難うございます」
「礼なんていい、ただ行き帰り一緒になっているだけだ」
 由紀が最初に一緒になった理由をだ、慎も言った。
「それだけだからな」
「わかりました、それじゃあただ」
「俺はこれが通学路だ」
「私もです」
「行き帰りが一緒になった」
「そういうことですね」
「それだけだからな」
 やはり顔を正面に向けたまま言う慎だった、由紀を見ていない。
 由紀はその慎と共に歩き続けた、この日からも。
 その中でだ、学校の授業の合間にクラスを出て実習室に向かう時にだった。ふとだった。
 廊下を歩く
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ