第二章
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「何で知っている」
「えっ・・・・・・」
その問いにだ、由紀はしまったと思った。いきなり先輩と言ったことが失敗だったと今になって気付いて後悔した。
「それはその」
「どうして」
「あれです、先輩って有名なんです」
狼狽しつつだ、由紀は焦った顔で取り繕った。今はとりあえずこうしておこうと咄嗟に思ってのことである。
「それで私も」
「知っているのか、俺を」
「はい、ラグビー部で活躍されていて」
「それでか」
「私も先輩のこと知っています」
こう答えるのだった。
「だからです」
「それでか」
「はい、そうです」
「そういうことか」
「それで先輩これから」
「駅まで行く」
やはりぶっきらぼうな返事だった。
「そうしてそこから家に帰る」
「それだけですか」
「それがどうした」
「いえ、寄り道とかは」
「今日はしない」
前を見ての言葉だ、由紀の方を見ずに。
「別にな」
「そうですか」
「そうだ、それであんたは」
「はい、私もです」
「駅まで行ってか」
「帰ります」
こう慎に答えるのだった。
「それから」
「通学路はこちらか」
「え、ええ」
実は違う、由紀はバス通学だ。駅のバス停から家に帰ることが出来るので駅に行くことは多いにしても学校の前のバス停から家に帰ることが普通だ。
だからこのことを隠してだ、戸惑いながら答えたのだ。
「そうです」
「そうか、わかった」
やはりぶっきらぼうなままの慎だった。
「なら帰るか」
「私も駅に行っていいですよね」
「俺が言うことじゃない」
「先輩が、ですか」
「人の通学路はそれぞれだからな」
それで、というのだ。
「俺が言うことじゃない」
「それじゃあ駅まで」
「俺は帰る」
一人で、とだ。言葉の中に含ませての言葉だった。
「こうしてな」
「わかりました、じゃあ私も」
さりげなくを装ってだ、由紀は慎と一緒に帰ったのだった。これはこの日だけでなく次の日もまた次の日もだった。
遂には朝もそうする様になった、だが。
慎の態度は変わらない、無愛想なままだった。話し掛けてもこれといった反応がない。一月続けてもだった。
それでだ、由紀は友人達にだ、どうかという顔で昼食の時に食堂でうどんを食べつつ言うのだった。食べているのはきつねうどんだ。
きつねうどんのその薄揚げを食べながらだ、こう言ったのだ。
「先輩ってね」
「ああ、相変わらずなのね」
「無愛想なのね」
「無愛想なままなのね」
「相変わらず」
「一ヶ月ね、通学一緒なのに」
無理をしてそうしている、しかしだったのだ。
「先輩挨拶してもな」
「ああ、とかよね」
「それ位よね」
「そうなのよ、私の方も見ないし」
それすらないというのだ。
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