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切り札は隠す
第五章
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 その友人達もだ、その梨亜杏に笑顔で言った。
「それもこれもよね」
「やっぱり切り札のお陰よね」
 こう言いつつだ、梨亜杏のその切り札を見るのだった。そのうえであらためてだ、彼女にこう言ったのである。
「その脚のね」
「脚のお陰ね」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「ただっていうと?」
「こうして脚を出すとね」
 ここからは苦笑いで言う梨亜杏だった。
「ちょっとね」
「ちょっと?」
「ちょっとっていうと?」
「冷えるから」
「あれっ、ひょっとして梨亜杏って」
「冷え性?」
「身体よく冷えるの?」
 ここで皆このことに気付いたのだった。
「そういえば冬暖かいって言ってたけれど」
「あんた冷え性だったの」
「だから夏もなの」
「ズボンだったの」
「高校時代もね、ちゃんとね」
 スカートの時もだったというのだ。
「タイツとか穿いてたから、ストッキング二枚重ねとか」
「そうだったの、冷え性なの」
「それで夏涼しいって言いながらも」
「ズボンだったの」
「そうなの」
「今もね」
 素足を思いきり出している今もというのだ。
「結構きついわ」
「冷え性ねえ」
「そのこともあってなのね」
「あんた脚は切り札なの」
「そうだったの」
「切り札でもありね」
 そして、というのだ。
「伝家の宝刀でもあるのよ」
「脚を見せると冷える」
「そうなのね」
「実はなのね」
「諸刃の剣だったのね」
「ちょっとね」
 梨亜杏は困った顔になってだ、周囲自分達で歩いている商店街を見回して言った。
「お店に入ってね」
「おトイレの中でストッキング穿きたいっていうのね」
「冷えるから」
「そう、何処か入ろう」
 こう友人達に言うのだった。
「これからね」
「そうね、飲み足りなかったしね」
「居酒屋にでも入ってね」
「そうしてね」
「飲み直しも兼ねてね」
 ストッキングを穿こうと話してだった、そのうえで。
 全員で商店街の中でたまたま見付けた居酒屋の中に入った。そうしてその店の中のトイレでだ、梨亜杏はストッキングを穿いて難を逃れた。そうして居酒屋の中で焼酎を飲みつつこんなことを言ったのだった。
「やっぱり素足は大変ね」
「切り札はそうそう切れない」
「そういうことね」
「彼ともね」
 そのメール交換をした彼もだというのだ。
「ちょっと苦労することになるわね」
「滅多に切らないカードだけに」
「大変ね」
「ええ、久しぶりに脚出して実感したわ」
 そのことを、というのだ。梨亜杏は冷えた脚と今ストッキングで暖められていくその脚の両方の感触を思い出しながら言うのだった。


切り札は隠す   完


                              2014
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