二十三話:決別の選択
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かれたからその時は『兄さんの真似をしたんだ』
なんて言ったな。まあ、子供が大人を騙せるわけがないからすぐにばれたけどな。
それで、怒られると思ったんだけど―――
「俺の為に…こんなに傷ついてくれたんだな…っ!」
黒歌の手袋を外して優しく手を握る―――火傷や切り傷の残る手を。
ああ……今やっと分かったよ、兄さん。あの時は子供だから分からなかったけど……。
兄さんがどうして泣きながら俺が作った『トマトソースパスタ』を食べていたのか。
ポツリ、ポツリと、温かい水滴が黒歌の手に落ちていく。
「ル、ルドガー?」
ああ……生きていてよかった…っ! 涙が止まらない…っ。
そうだ…兄さんは…俺は―――救われたんだ。
たった一つの料理で、何よりも自分を想ってくれる人の心で救われたんだ。
それがどれだけのことか今の今まで気がつかなかった。
どうして俺なんかの為に兄さんは全てを賭けてくれたのだろうかとずっと思っていた…。
でも…今ならわかる。
―――この手を守ろう。
ただ、自分の為に傷だらけになってまで料理を作ってくれたこの手を。
誰よりも俺の事を想ってくれるこの人を守ろうと、この人のために生きよう。
その為なら、どんなことでもしてみせる。
例え、再び世界を壊すことになっても、大切な何かを失う事になってもだ。
この人の為なら命だって捨てられる。この人の為に―――“今”を生きよう。
それが俺の生き方なんだ!
「やっとだ…やっとわかった」
どうして、こんなにも近くにあったのに今まで気がつかなかったんだ、俺は。
辛くて仕方がなかったこの数日、誰が俺の傍に居てくれたんだ?
誰が俺を支え続けてくれたんだ?
こんなにも自分のことを心配してくれる人がいた。
こんなにも自分を愛してくれている人がいた。
ずっと、ずっと…俺を支えてくれていた人が居たんだ。
ああ……俺は何て馬鹿だったんだ。
失った者ばかり見ていて今、隣にいる者をまるで見ていなかった。
ミラが止めてくれなかったら俺はこの人を殺していたかもしれない。
本当に俺は馬鹿だった……でも、ようやく気づくことが出来たんだ。
ギュッと優しく黒歌の手を握り締めてここ数日間まともに見ることが出来なかった黒歌の金色の瞳を真っ直ぐに見つめて笑いかける。その行動に戸惑いながらも黒歌も見つめ返してくれる。
君が、俺の―――
――“生きる意味”だ――
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