第三章
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はそんなことを言いながらこの日を過ごした。彼等は長門をただのものだと思っていた。だが日本軍の者達は全く違っていたのだった。
「もう終わりだとは思うが」
「それでも。少しでも長く耐えてくれ」
「頑張ってくれ」
こう言うのだった。
「少しでいいから」
「最後まで見守る」
彼等はそのつもりだった。長門を見ながらその死を見届けようと決意していた。だがその次の日の朝に海を見ると。もう長門の姿はなかった。
「去ったか」
「そうだな」
「夜の間に」
日本軍の者達は昨日まで長門がいたその海を見て言うのだった。
「誰にも告げずか」
「逝ったのだな」
見届けるつもりだった。だがそれは適わなかった。しかしそれでも彼等はそこに見ていたのだった。
「静かに」
「最期まで看取るつもりだったが」
そのつもりでここにいた。しかしそれは適わなかった。だがそれでも。彼等は思いそうして言うのだった。
「それもまたよし」
「死ぬ姿を見せないというのならな」
長門のその気持ちを受け取ったのである。彼等にはそれがわかったのだ。長門の最後の心を。
その彼等は今静かに並んだ。横一列に海を前に並びそのうえで。
「敬礼!」
「敬礼!」
長門が眠るその場所に敬礼した。誰もが涙を流していた。こうして長門に別れを告げたのであった。
長門は核実験により海に沈んだ。そして今も眠っている。長門は確かに沈んだ。だがそこには確かに何かがある。それが何かというと感じ取る人もいれば感じ取らない人もいるだろう。しかし長門という戦艦がこの世にあったこと、それを涙して看取ろうとし別れを告げた人達がいたこと、この二つは書き留めておきたい。歴史の一幕になれば幸いだと考える。
一言も漏らさずに 完
2009・8・17
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