第三章
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「もうね」
「それじゃあ」
「私も何も言わないわ」
優しい笑顔でだ、私にこうも言ってくれた。
「誰にも迷惑をかけていない癖だから」
「だからなのね」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「忘れないことよ」
彼女が私に言う最も大事なことはこのことだった、ここで私に言ってくれた。
「その相手の人のことをね」
「別れても」
「その人と別れても。忘れていないとね」
つまり覚えている、それならというのだ。
「その人はあんたの中に生きているから」
「それでなのね」
「そう、忘れないことよ」
このことが最も大事だとだ、私に話してくれた。
「誰のこともね」
「あんたのことも」
「そうしてくれると嬉しいわ」
その優しい笑顔でだ、私にこうも言ってきた。
「私としてもね」
「そうなのね、それじゃあね」
「うん、じゃあね」
こうしたことを話してだった、友達は私に最後にこう言った。
「またね」
「ええ、またね」
私達は笑顔で別れの言葉を交わした、そして。
彼女が私の目の前から消えるその瞬間にもだった、私は目を伏せた。そうして彼女が私の前からいなくなるその時は見なかった。
彼と会ってもだ、同じだった。
やはり目を伏せた、そうして。
後の携帯のやり取りでだ、私は笑って彼に言った。
「やっぱりさっきもね」
「目を伏せたんだね」
「そうしてたわ」
「本当に癖だね」
「どんな癖だと思うかしら」
「面白い癖だね」
明るく私にこう言ってくれた。
「何かと」
「そうなのね、ただ」
「ただって?」
「忘れないから」
友達に言われたことをだ、彼にも言った。
「私はね」
「俺のことを覚えてくれるんだ」
「ええ、そうするから」
「有り難いね、やっぱり俺にしてもね」
「覚えてもらう方がよね」
「嬉しいからね、じゃあ今日のこともね」
「ええ、忘れないわ」
楽しい一日だった、だからこそ。
私は彼に覚えていると答えた、そしてだった。
笑顔で携帯を切った、このことも覚えることにした。私はそのことを心に誓って一人でいた。今は目を開けて。
条件反射 完
2014・5・1
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