王の荒野の王国――木相におけるセルセト――
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星に永久に囚われる事となろう」
「我が神ヘブの名を気安く口にするのは賢明ではないぞ、愚王よ」
「我は慈悲深い。貴様が我とベリヤの間の子でなければ、今日までに百度は首を刎ねていた所だ」
見えざる殺気が、父と娘の間を行き交った。ニブレットは肩を竦め、溜め息とともに、元通り片膝をついた。
「しかし、斯様な用件で揉めたところで仕方あるまい。王の荒野の彼方へ参りましょう。その男を石相との境界より見つけ出し、連れて参ります」
「物わかりの良い事だ」
ウオルカンの横の木巧魚が、頷くように一度頭を下げた。
「ジェナヴァの軍港より、友軍が都に兵を進めている。タイタス軍もこれ以上包囲を続ける事はできまい。機を見て、保護の魔術を受け出立するがよい。魔術師サルディーヤと木巧魚の同行を許可する」
かくしてニブレットは、機を待ち、保護の魔法によってタイタスの兵の目を欺きながら、未だ敵に知られていない北の隘路を通って王の荒野を目指した。旅にはサルディーヤと二体の木巧魚、三頭の馬が同行した。ニブレットとサルディーヤがそれぞれ一頭の馬に跨り、もう一頭には荷を積み、手綱をサルディーヤが握った。日のある間、二人は黙々と馬を歩かせた。ニブレットは、サルディーヤが日没まで水も食料も口に入れぬ事を不気味に思った。また、日没、馬を休ませるに至っても、彼は自ら火を起こそうとはしなかった。彼が寒さを感じていないように、ニブレットには見えた。
火を囲って休む内、ニブレットはサルディーヤに関する記憶がほとんど抜け落ちている事に気付いた。ニブレットは目を閉じ、縁ある人々の事をゆっくりと思い出した。
連隊長カチェン。王国の第二王女を部下に持つ事となった気苦労の絶えぬ男。この終わらない冬戦争によって少年時代に両親を亡くし、たった一人の妹も、王の寵臣イユンクスに斬り殺された。決して無能ではないが、あらゆる運から見放された男。
魔術師ベーゼ。魔術の才以外の何も持たない太った男。小心。驕慢。敵の襲撃に遭えば部下を盾に、我先に逃げる恥知らずの将校。
侍女オリアナ。利発で生真面目。愛らしい容姿を持ちながら、彼女にその自覚はない。琥珀の髪に、情熱的な瞳。透きとおるほど白い肌。その下を縦横に走る彼女の血管。生ぬるい肉。恥じらいを秘めた吐息。
第一王女ブネ。無能な姉にして、レレナに奉仕する巫女。根暗で内向的。あれが先に生まれていなければ、さっさと眼前から追い払っていたものを。
聖王ウオルカン。あれには戦の才がない。先代の王より莫大な富と玉座と終わらない冬戦争を引き継ぎ、富は消え、玉座の上の腐った体と戦争だけが残った。不幸な男だ。
正王妃ベリヤ。我が母。強欲。傲慢。実妹が第二王妃として嫁ぐや、妹の優れた容姿と様々な才能を妬み、実子に王位を継がせる為ブネとニブレットの暗殺を謀ったと言いが
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