最終話 コネクティング
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ノックも無しに開かれ、左腕をアームホルダーで吊るした少年が入ってくる。
風原くん――彼が他人に見せたくないものを見せてしまったように、私もまた彼に見せたくなかった光景を見られてしまった。なのに、相も変わらず彼は何でもなさそうに面会者用の椅子に腰掛けた。
「……………」
「……………」
互いに無言のまま、時間だけが過ぎる。
きっと話すべきことは沢山あるのだろう。手の具合はどうか、とか。警察に疑われなかったか、とか。怪我させてごめんなさい、とか。
でも隣にいると思うと、なんだか声がかけづらい。
「……あの、さ」
以外にも、先に沈黙を破ったのは風原くんだった。
「なぁに?」
「お前、保護者が居なくなっちまったじゃないか。元々生活は一人でいてたようなものだったかもしれないけど」
「……そう、だね。家事とか食事とか、お父さんは何もしなかったから」
「それで、なんだが……」
「?」
風原くんにしては嫌に歯切れが悪い。奥歯に物が詰った物言いに首を傾げた。
やがて、風原くんは意を決したように切り出す。
「律華さんが、うちに住まないかって」
「……うち、って」
「だからっ、律華さんがお前をうちの家に泊めてあげたいって言ってるんだよ!」
声を荒げて言い切った風原くんは、大きく深呼吸して改めてこちらを見る。
「ひょっとしてちょっと照れてる?」
「……………知らんっ」
「照れてるんだ。かわいー♪」
「煩い!くそっ、お前全然元気そうじゃねえか!変に気を使って損した!!」
「あははっ!耳が赤くなってるよ風原くんっ!」
「なってない!てめ、指さして笑うな!」
自分でも驚くほどに快活に笑った。
風原くんが隣にいるだけで、胸に空いた空白に何かが嵌まる感じがする。こんな他愛もない会話をしているだけでこれほど楽しく感じるなんて、不思議だ。直ぐにここが病院だと思い出して互いに黙ったが、それでも楽しかった。
それにしても、と先ほどの言葉を思い出す。
九宮家に、一緒に住む。とても魅力的な誘いだ。律華さんはとっても優しいし、風原くんと一緒にいるのも好きだ。その二人と暮らす――むしろ断る理由がなかった。
でも、よく考えたらこれは確かに風原くんが言うのを躊躇うのも分かるかもしれない。
要約すれば「俺と一緒に住まないか」、だ。少女漫画にでも出てきそうな台詞だ。
これを女の子相手に言い出すには、彼なりに勇気がいることだっただろう。
まるで――プロポーズみたいだから。
「ねぇ、風原くん」
「何だよ」
「手、繋いで?」
「……ほらよ」
ベッドの上から差し出した左の掌が、風原くんの右掌と重なる。
感触を確かめるように指を絡め、気がついたら恋人繋ぎ
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