第9話 アピアリング
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私は自分の頭がクリアになっていくのを感じた。
ぶつり、と父音繋がっていた絆の糸が断ちきれるのを感じた。
この余りにも愚かな男は、本物の愚か者だった。
「代わり……?居座り……ッ!?ふざけるなぁぁぁぁぁーーーーッッ!!!」
私は踏みつけてくる父の足を引っ掻いた。
表皮がめくれ、ピンク色の肉と赤い血がじわりと断面を晒す。その想像を絶する痛み故か、父は情けない悲鳴を上げた。
「ぐああぁぁぁぁああッ!?」
「ハァッ……ハァッ……!!」
足を抑えて無様に転げまわる父親を見下ろして、私は胸の内に溜め込んだ全ての怒りを叩きつけた。
母さんが死んで以来、私が自分でも知らずに溜めこんできた全ての鬱憤を、怒りを、理不尽を、吐き出す。
「母さんに似た顔をしてるのは二人が私をつくったからでしょ!家事も料理もしてたのは、いつまでもくよくよしてる『あんた』が立ち直れるようにと思ってやったことでしょ!母さんが死んで以来誰も断つ人がいなかったから!あんたが何もしなかったからッ!!」
まるで自分だけ悲しいように振る舞うこの男が許せない。
まるで私が何も知らない所からやってきたようにのたまうこの男が許せない。
こんな――こんなどうしようもない男をそれでも家族だなどと信じて騙されていた私が許せない。
ぜいぜいと肩で息をしていた私は、足元に転がっていた酒瓶を両手で掴んで振り上げた。
「それを、人を模造品か代価品みたいに好き放題叫んで殴って!!私はあんたの道具かぁッ!!」
「うぁぁ、げっ……ご、お、おぉぉ……」
「うわぁぁぁぁぁぁぁッ!このっ、このっ、このぉッ!」
酒瓶を振り下ろす。ゴッ、と骨を打つ鈍い音が響く。
あいつが豚のように情けない悲鳴を上げる。
もう一度振り下ろす。また鈍い衝撃と悲鳴。
まだだ、私の受けた痛みは、苦しみは、こんなものではない筈だ。
何度も、何度も、痛みをアドレナリンでかき消してひ弱な肉体を何度も酷使して、酒瓶をあいつに振り下ろす。悲鳴を上げても誰の名前を呼んでも、振り下ろす。
もう信用などするものか。二度と父などと呼ぶものか。何を言われても二度と許すものか。
死んでしまえ。
死んでしまえ。
当たり所が悪かったのか酒瓶が割れて、尖った先端がぎらりと光る。
狼狽えていた父の目にその凶器が映り、息をのむ声が聞こえた。
でも、もう知るものか。
「死んで……しまえぇぇぇーーーーーッッ!!!!!」
悲鳴染みた叫び声と共に振り下ろした酒瓶が、真赤な血の滴を床に滴らせた。
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