第9話 アピアリング
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とぼんやり思った。
だが、不意に。
「大丈夫かしらね、あの子……」
「あの子ってどこの子よ?」
「ホラ、千代田さんの家の!」
「ああ、クルミちゃんね!」
噂話をしている中年女性の会話が耳に入り込んできて、思わず立ち止まる。
「夜遊びだか何だか知らないけど、あんな飲んだくれが一緒じゃ家に帰りたくないのも無理はないわよ」
「でも、今回は本当に危ないかもしれないわよ。昨日に浜崎商店の酒屋に来たとき、今までにないくらい荒れてたんですって」
「嫌だわ、暴力事件でも起こされたら溜まったもんじゃないわよ」
「殺してやるー!って血眼で叫んでたそうよ。ありゃもう家に帰らない方が身のためだね。下手したらあの細い腕くらい簡単に折られちゃうわ……」
「ちょっと、いいですか」
気が付いたらその話に割り込んでいた。普段は井戸端会議など興味もなく通り過ぎるくせに、その時だけ――虫の知らせのようなものが胸中を蠢いたのだ。
「あ、アンタえぇっと……」
「千代田の家って、どの辺りですか?」
中年女性を脅すように、俺は詰め寄った。
背筋を焼くような焦燥を感じつつ。
(なんだこの……胸に引っかかる感覚は?もし……もし俺に、千代田の父親みたいな存在がいたとして……千代田が俺と価値観を共有したんだとしたら………)
嫌な――とても嫌な予感がした。
= =
早く学校へ行こうと思い、いつものようにこっそり一カ所だけ空けてある家の窓から中に入った。
昨日の内にここに置いておいた鞄を拾って、早く向かおう。
そう思っていたのだが、家に入って私は直ぐにあることに気付いた。
鞄が、ない。
腹の底に重苦しいものが落ちる。確かにここに置いたはずなのに、その痕跡すら残っていない。
――まさか、父に気付かれた?
焦りから、つう、と冷や汗が頬を伝う。家の中の静寂が、突如として痛々しいものに感じられた。
張りつめるような緊張感が、呼吸を荒くさせる。
今までこんな事は一度もなかった。でも、考えれば本当に一晩中この家に帰りもしなかったのは初めてだ。食事も作られていなかった以上は、いくら酒に溺れている父でもそのことに気付いたはず。
ならば探し回って鞄を見つけていてもおかしくはない。
(落ち着いて、落ち着いて……大丈夫。この時間帯ならまだ寝てる筈)
足音を立てないように、そろりと歩く。
布を擦る音やちょっとした板間の軋みが、今だけはとても大きな音に感じる。
ゆっくり、ゆっくり、廊下を歩き、部屋の中を覗いて鞄を探す。
結局父も鞄も見受けられず、リビングに出た。
「うっ……なに、この臭い」
酷く籠った、酒と第異星特有の体臭が入り混じった
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