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新説イジメラレっ子論 【短編作品】
第9話 アピアリング
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しの物があることに律華さんは気付いていたらしい。

「………隠せないね、2人には」

 改めて突きつけられると、辛い現実だ。
 唯一の配偶者で、唯一の肉親。きっと未だに私の本能が縋っている存在。

「鞄を取りに一度戻らなきゃならないなぁ……きっと、凄く怒ると思う」
「……帰らなくてもいいんだぞ。虐待の事実を児童相談所にでも訴える事は出来る。親権停止もあり得るだろう。それも子供の立派な抵抗手段だ」
「………うん。でも、いいの」

 私は首を横に振った。

「父さんはきっと私が居なくなったら本当にダメになっちゃうから……家族の葬式を2回もするのはもう嫌なの」

 母が死んだあの日から、父から逃れようと思ったことは何度もある。それでも逃げなかったのは、母を喪った時の苦しみにもう直面したくなかったから。
 父さんだって、いつか何かのきっかけで立ち直ってくれるかもしれない。そんな時に支えてあげられる家族がいないのでは、余りにも寂しい。

 そう言うと、風原くんは無表情でそうか、と言った。

「俺は……そんな日が来るか懐疑的だよ。でもまぁ、お前風に言えばそれは泥を見ることなんだろう。お前は星を見る係だ。我慢できるところまで行けばいい」
「うん………ごめんね、心配かけちゃって」
「……してない」

 ふいっと顔を逸らす風原くんの頬は、ほんの少しだけ恥ずかしさで紅潮していた。
 風原くんの価値観では、こんなふうに感情を悟らせるのは弱くなることなのかもしれない。でも、私の前でそんな弱さを見せてくれることは少しだけ嬉しかった。

「じゃあ、行って来るね。学校でまた……」
「ああ、学校でな」

私達はそう言って別れ、それぞれの目的の場所へと向かった。



 = =



 朝からとても変な気分だった。
 千代田が家にいて一緒に食事をとるのもだが、それを悪く思っていない自分がとても不思議だった。

 昨日、千代田に抱きしめられた時に、俺は心の中で何かが崩れ落ちる音を聞いた気がする。
 千代田に、俺は甘えん坊なんだと言われた。そんな筈はないと必死で否定しようと思ったが、俺は俺の身体を抱きしめる千代田の華奢な体をそれ以上傷つけたくなくて、結局振り上げたての落としどころを見失ってあいつに縋りついた。

「二人ならできる、か……」

 千代田が口にした言葉だ。
 一緒に脱獄して幸せになろう、などとロマンチックな事を言う奴だとは思っていなかったが、あいつは俺なんかよりもよほど強くて頼れる存在だったのかもしれない。
 結局、あいつの事を嫌いになれなかった。

 これから、あいつは来るなと言われても一緒に来るのだろう。新しい幸せとやらを一緒に探すために。
 俺はきっとそれを拒めないのだろうな、
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