第9話 アピアリング
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せないでくださいよ、律華さん」
「連れない子ねぇ真人くんは……ま、いいけど。昨日の今日で突然変わることなんて出来やしないわ」
この二人は、これからきっと少しずつ変わっていくことが出来るだろう。
元々風原くんが頑なに拒んできただけなのだ。いつかは二人が手を繋ぐことができるだろう。
とても名残惜しくはあるが、そろそろここを離れて学校へ行かなければいけない。
後ろ髪をひかれながら、私は風原くんと一緒に家を出た。傘は律華さんのものを借り、見送られつつ家を出た。こんな雨の日なのに、律華さんの笑顔は太陽のように明るくて、今日を生きる活力を分けてもらった気がした。
雨が降る中、左手で傘を持った風原くんに私は話しかけた。
「良い人だね、律華さん」
「人がいいんだ。時々嫌になるくらいに……こっちが辛くなるくらいに」
「今も辛い?」
「……さあな」
「素直じゃないなぁ……これからは甘えてあげなよ。律華さんはきっと待ってるよ?」
「嫌なこった。ガキじゃあるまいし、今更甘えるかよ」
「中学生なんてまだまだ子供じゃない」
「見解の相違だな」
ああ言えばこう言う。風原くんの口の悪さは生意気な子供とそう変わらないと思う。
でも、きっとこんな会話をする時の風原くんこそ、素の風原真人なのだ。
私が必死の思いで閉ざされた門から連れ出した、風原くん。
「――ねえ、風原くん」
「なんだ」
雨の降りしきる人通りの少ない住宅街を並んで歩きながら、お喋りになった私たちは他愛のない会話を続けた。
「お母さんの事、好きだったの?」
「……好きだったに、決まってるだろ。理屈と感情は違うけど、感情と本能も違うんだ。感情では拒絶しながらも、本能ではどこかで縋っている……母親っていうのは俺にとってそう言うものだ。……お前は?」
「私はね、お母さんの事は好きだった」
でも、と続ける。
「先に死んじゃって、私と父さんを置いていったことは……ちょっと恨んでる、かな」
仕事が好きな人だったんだろう。仕事に誇りを持っていたから、死ぬまでそれを全うしたのだとは思う。でも――私も、そして恐らくは父さんも、後ろにいる家族の事を振り返ってくれなかったあの人に割り切れないものを抱いている。
「父親、か……お前、大丈夫なのか」
「何が?」
風原くんは、その表情に微かな不安を覗かせて、私の貌を覗きこんだ。
「お前、父親に虐待されてんだろ」
「……ッ」
「この近所じゃ有名な噂だ。昨日律華さんと一緒に風呂に入ったろ?……お人よしのあの人が、その痕跡に気付かない訳がない」
例えばそれか庇うようにする体の痣とか、未だに僅かながら痛む肩だったり。学校でのいじめ分もあるのだろうが、明らかに力加減な
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