第8話 グラスピング
[7/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
他人を退ける方法が暴力しかない。
なら、暴力を諦めさせることが出来れば――手が届く。
滅茶苦茶で強引な、そんな方法しか思いつかないけど……かまうものか。
風原くんが怖がろうが怖がるまいが、私にはもう今の自分の思いを止めることが我慢ならないのだ。そんな程度の暴力で引くほど半端な覚悟で風原くんの部屋に来たわけじゃない。
それを証明するために、わたしは今だけは決して引かない。
また近づいて、伸ばした手を振り払われて。それでも前へ進んで、また繰り返して。
手が痛い。肩が痛い。背中が痛い。涙が出そうになる。
でもそんな私以上に、風原くんは苦しそうで、今にも泣きだしそうだった。
「怖くないよ、風原くん……」
「もう……もう来るなよ!もう沢山だろう!そこまで痛い思いをしてまで何で俺に近づく!?」
「違うよ。これから沢山、一緒に歩きたいんだよ」
二人の囚人が鉄格子の窓から外を眺めた。
一人は泥を見た。愛など幻想なのだと言い聞かせ、泥の中で足掻く術を探した。
一人は星を見た。いつかは求める愛が手に入ると、寒さと餓えから逃れようとした。
でも、もしも二人の囚人が手を取り合う事が出来たなら――
「あ………」
「捕まえ、た」
風原くんの手は、止まった。私は風原くんの身体を抱きしめた。
どくどくと心臓の高鳴りが私にも届き、恐れから来る汗のにおいがした。
でも、風原くんの身体は驚くほどに暖かくて、こわばっていた力は少しずつ解かれて。
「……ちくしょう。ちくしょお………なんなんだよ、もう……訳、わかんねぇよ………!」
「教えてあげる。つまり風原くんは……本当はびっくりするくらい甘えん坊だったってことだよ」
そう伝えて、微笑んだ。
やがて風原くんは、全てを諦めたように身体をベッドに横たえた。
引っ張られて私もベッドの上に横たわる。ちょうど、私が押し倒しているような形だった。
風原くんは私の肩に顎を乗せたまま、静かに泣きながら――私を抱き返した。
「……親に騙されてたんだと信じ込んでたんだ。それで騙された自分が許せなかった……本当は、ただ愛されてなかったのを認めるのが怖くて逃げただけなのに。それでもう二度と騙されるものかって……
「それで、人を心の底から信用できなくなったんだね。そして、それが本当は人間関係から逃げる事だって気付いてた。だから人を信頼するのは、風原くんにとっては甘さだったんだね」
「お前の言うとおり、俺は甘ったれだ。たった一回近付かれただけでこの様なんだからな」
「もう逃げなくてもいいんだよ。ちょっとずつでいいし全部じゃなくていい、風原くんに伸ばされた手を……握り返してあげて」
「また裏切られたら…
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ