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新説イジメラレっ子論 【短編作品】
第8話 グラスピング
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ら、別の人間が親だと名乗ってもそれを受け入れられない。ほんの少し手を伸ばせば届くのに、それが出来ない。
 ――きっと、裏切りが怖いから。相手に期待を抱くことが怖くてたまらないから。

 私は、その手を取りたい。

 前へ前へと進む力を、引っ張れるだけの力を、風原くんはきっと持っている。
 なのに、足りていない私と同じ場所で燻っている。
 だから、私は言いたいのだ。

「風原くん……私に足りないものを壊すのを一緒に手伝って。私も、風原くんに足りないものを一緒に壊すから」

「……煩い」

「風原くんが私に期待したのは、自分が持っているものを私が持っていなかったから。自分の持っているそれが私にあれば虐められずに済む事が我慢できなかったから。私にそこにいてほしくなかったからだよね」

「……煩い、止めろ」

「それは今わたしがあなたに抱いている気持ちときっと同じ……でも、私達って歩み寄ってないんじゃないかな?私だけ風原くんに歩み寄っても、私の知らない所で風原くんが歩み寄ってきても、どっちも中途半端で終わっちゃうじゃない」

「止めろ、千代田!」

「一緒に歩こうよ。一緒に檻の外の星を見よう。一人で上りきれない壁もあなたとなら登れる。あなたに手を差し伸べることだって出来る。二人なら出来るよ!」

「止めろと言っている!俺に近づくな……!」

「私、いまの貴方が大嫌い。でも今の自分も大嫌い!だから……だから……あと少しで乗り越えられる壁を越えれば、嫌いは逆転する!その逆転が怖くて竦んでいる足を動かすために!」


 風原くんが私に真剣になってくれたことを知って胸が痛んだ理由は――きっとわたしも風原くんに真剣になりたかったから。
 人生できっと初めて、与えるでも与えられるでもなく、自分の世界を彼の世界と繋げたい。

「私を受け入れて、一緒に歩んで、私の事を好きになって欲しいの!!」

 どうしようもなく独りよがりで、自分勝手な我儘。でもこれが私の本心だから。
 苦しそうに呻く風原くんに、立ち上がって近付く。

「来るな……!」
「……………」
「来るなよ!来るなって言ってるだろ!!」

 風原くんに触れようとした手が振り払われて、私は突き飛ばされた。
 フローリングの床に背中がぶつかって、肺から空気が漏れる。背中が痛い。
 でも、立ち上がる。痛みから咳が漏れるが、それでも引かない。

「風原くんが敵だからでも、味方だからでもない。……私、もう負け犬でいたくないの。だから……痛みからは逃げないよ」
「何でだよ!来るなよ……帰れよッ!!」

 叫ぶ風原君の顔には、もう怒りはない。
 あるのは受け入れることへの恐怖と、本当は相手を拒絶したくない優しさの二律背反。
 風原くんには、
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