第8話 グラスピング
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母の死を機会に崩れ出した家庭の話。
可笑しくなっていった同級生たちの話。
母の代わりに家を支えようと努力すればするほど父が荒れていくこと。
最近はもう何を切っ掛けに怒っているのかも理解できず、父が理解できなくなったこと。
そして――
「ずっと我慢してればいつかはこんな生活が終わるのかなって、最近まで思ってた。そんな時、風原くんに言われた。自分の身は自分で守れって。でも、私は自分で自分の身を守れるほど強くないって思って、だから私には幸せまでたどり着けないのかなって思ったら……次の日から、何もかもどうでもよくなった」
「………」
「でも、どうでもいいって心の中でずっと呟いてたのに、目はいつのまにか風原くんを追ってて。その理由が分からなかった」
吹いてきた風によってうねる激しい雨が窓を叩く。
荒れる天気は憂鬱を呼ぶ。雨の降った日の父は絶対に荒れているからだ。雨の日に帰りに遅れたりしようものなら、凄まじい剣幕で怒鳴り付けられ、顔を殴られることさえある。でも今日だけは――今日だけは、私は帰れない。
「風原くんに会って、見てて、それで律華さんに話を聞いて、私は漸く分かった気がする」
初めて出会ったあの日、私の手を取ってくれた風原くんはきっと私の事を助けたかったんだと思う。理由は分からないけれど、風原くんなりに助けたいと思ったんだと。
そんな風原くんの手の感触を忘れられないのは。
そんな風原くんの言葉が頭を離れないのは。
実体を伴わない人間関係の中で、本当は私が味方以上に望んでいたのかもしれない存在だから。
「私、思ったの。あの負け犬って言葉は本当は風原くんが自分に向けた言葉だったんじゃないかって」
「俺が、俺を……負け犬だと?俺はやられてやり返せずにいられるほど大人しくない」
風原くんの顔に、微かな怒りが浮かぶ。
でもそれも、私は受け入れたい。
「逃げられる場所にいない。私も、風原くんも。逃げ場のない世界の内にいた。二人ともそんな檻を壊したいと思っているのに壊すことが出来ない。そして、出口までの隘路に躓いたのが私で、出口から外に行く勇気がないのが風原くん」
「人の事を臆病ものだって言いたいのか、お前……!」
「うん。きっと私たちは似た者同士なの」
風原くんの声に、殺意のようなものが混じった。ぎりぎりと握り込まれたその手は今にも私の細い体を吹き飛ばすために振り上げられそうだ。
でも、私は例え殴られても、今日だけは引きたくない。
「家族を亡くして周囲が変わった私と、家族がいなくなって自分を変えたあなた。辿る道はきっと一緒。親に守ってもらえないままおっかなびっくり前へ進んでる」
家族がいない孤独を、彼は知っている筈だ。それでもかつての家族が忘れられないか
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