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新説イジメラレっ子論 【短編作品】
第8話 グラスピング
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 というか、風原くんは先生に対して敬意のようなものがない。きっと内心で敬意を払うに値しないとか思っているんだろう。そして、自分が評価に値しないと相手に思われているのが気に入らないから自分の能力を上げて釣りあいを取ろうという訳だ。評価されるだけの能力もないのに相手をけなすのは単なるひがみ化負け犬の遠吠えだから、負けず嫌いの風原くんならそうする。
 勝手な想像でしかないが、案外とこの予想には奇妙な自信があった。だとしたら本当に素直じゃないな、と思った私は、ちょっとカマをかけてみた。

「とかいって、本当は先生に勉強を教わってる立場なのが気に入らなくて独学してたりしない?」
「………知るか」

 図星だったのか、風原くんはふいっと顔を逸らして自分のベッドに座り込んだ。
 こちらのペースだ。風原くんに近づくにはペースをつかんで言葉を引きずり出していく必要がある。私は勉強机の椅子を借りて、向かい合った。

「九宮さんから何を吹き込まれたんだ。話したんだろう?」
「……そんなことまで分かっちゃうの?」
「吹きこんでなけりゃまずあの人が俺の所に確認取りに来るだろう。それとも黙って忍び込んだわけじゃあるまい?」
「それはそうだけど……会いに来たのは私の意志だよ」
「それも西済に吹き込まれたからなんじゃないのか?」
「……い、いいじゃん別に。誰かの意見を聞いて物の見方が変わることだってあるもん」

 いけない、いつのまにか風原くんの攻勢に押されている。押し切られる前に話を変えなくては。
 でも、具体的に何を話そうか、と考えた私は、そもそも風原くんが私の事をどこまで知っているのかが気になった。

「風原くんは私の事をどれくらい知ってるの?」
「知らん、お前なんか」
「人聞きの話では?」
「………ふぅ」

 外の雨が、少し強くなった。
 手に顎をついた風原くんは、ため息交じりに答える。

「母親が死んで父親と二人暮らし。父親は飲んだくれ。お前は気弱でひ弱で、ついでに負け犬気質。だから学校で体のいいストレス発散機扱いされていた。知ってるのはそれくらいだ………お前の知り合いの宮本から聞いた」
「宮本……香織ちゃんが、そんなことを?」

 意外な名前が出てきた。香織ちゃんは風原くんの事を毛嫌いしている節があったから、てっきり面識はないものだと思っていた。

「ふん。あいつが一方的に言ってきただけだ。……それで?お前はこれからお涙頂戴の不幸自慢でもするのか?」
「不幸自慢じゃないけど……私は風原くんの事を聞いちゃったから、代わりに私の事を少し話しておきたかっただけ」
「………喋りたきゃ勝手に喋れよ」

 ぞんざいな態度で風原くんは先を促した。

 私は、自分でも驚くほどすらすらと自分の身の上を話した。

 
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