第8話 グラスピング
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くかを決めるために、風原くんとお話に来た」
「……なんだそりゃ。俺はお前の人生なんかに興味はない」
「でも私は自分の人生にも風原くんの人生にも興味があるよ」
一歩も引いてはいけない。引いたら風原くんとお話しできない。
風原くんは相手を徹底的に拒絶して、距離を置いている。
でもそれは、本当の意味では逃げているのと同じこと。
距離を置くために自分が動くか他人を動かすかの違いでしかない。
だから、前へ。
風原君は動かない。だって彼は他人の為に自分が道を空けるのが嫌だから。それが他人に付け入る隙を与えると思っているから、彼は決して逃げはしない。
ならば近づけばいい。何を言われようと近づけば、距離は詰る。
「それに……話は聞くだけ。決めるのは私だから」
「…………」
「……………部屋、入っていいかな。立ったままだと互いに疲れちゃうし」
「…………」
ドアの前で、視線がぶつかる。
風原くんは何も言わずにこちらを鋭い目つきで見つめている。
いつもより険がある目だ。思わず圧されそうになるが、足を踏ん張って耐える。
不安はあるけど、今の私には風原くんは怖くない。
今までは風原くんの行動の意味が分からないことが恐怖だった。でも、今は風原くんの行動に納得している。だから私は彼の行動を受け入れたうえで、堂々としてればいい。
しばしの沈黙の後、風原くんは舌打ちしながら身を翻した。
「話が終わったらとっとと帰れよ」
「うん。ありがとう」
「……住所を教えたのは西済麗衣か?」
「そうだよ。やっぱり知り合いなの?」
「一方的にな。俺はあいつの事は分からない。あいつは……知っているみたいだが」
風原くんにとっても彼女は分からない存在らしい。忌々しげに眉を顰めた風原くんは、部屋のドアを開けたまま中に戻っていった。慌てて後を追って中に入る。
とても簡素な部屋だった。
1,2世代ほど前のゲーム機や古びた漫画などの本は少しばかりあるが、他に私物と呼べそうなものはノートパソコンと壁に立てかけられた釣竿くらい。後は最低限の家具がある程度だった。
生活感のない部屋。彼が普段何をしているのか感じ取れない部屋。
いや、一カ所だけ部屋に汚い場所がある。勉強机だ。
メモやプリントがきちんとまとめられないままに積み重ねられている。遠目に見たところ、勉強した形跡に見えた。少なくとも絵の類ではない。
「勉強、よくするの?」
「するさ。しなけりゃ馬鹿のままだ」
そういえば彼の成績が悪いという話は聞いたことがない。宿題も忘れず提出しているし、勉強に関して彼が教師から小言を貰っているのは見たことが無かった。頭が悪いと言う常套句のような悪口を避けるためかもしれない。
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