第7話 アンダースタンディング
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天気予報は、夕方から雨。だから傘を持ってきていたけれど、それはもう盗まれていた。
恐らくはもう帰ってこないだろう。どうせ安物の傘だ。盗まれるのも初めてではない。
雨に全身を打たれながら帰路につくことなど珍しくもない。
雨が降りしきる中、私は家の窓からこっそり自分の鞄だけを家に戻して風原くんの家を目指した。
どうして向かったのかを明確に言語にするのは難しい。
麗衣に教えられたからとも言えるし、風原くんの意図を確かめたかったのもある。
だが、恐らくそれよりも大きな割合意を締めていたのは――
自分を見失っていたから。
自分のするべき行動、目指すべき方向、共に歩むべき人間。
その全てが分からなくなって、風原くんに縋りたくなったのかもしれない。
ふらふらと、雨に濡れながら彷徨うように歩く。
雨は容赦なく全身に浴びせられ、服が皮膚に張り付くような不快感が全身を包む。
髪からぽたぽたと滴が落ち、傘をさして歩く住民たちはこちらを驚くやら訝しむやら多様な表情をみせつつ、でも声をかけたりはしない。
関わりたくないから。
関わるのが億劫だから。
関わる必要性を感じないから。
いらないし、どうでもいいから。
そんな中で私に期待らしいものを見せてくれた風原くんの背中が、今はとても遠くて、酷くおぼろげになってしまった。
彼は優しいのか、厳しいのか、危険なのか、そうではないのか。
彼は何で、何のために生きているのか。
風原くんにとって私は何なのか。
無心に歩き続けた私は、ひとつの民家の前で立ち止まった。住宅地の一軒家。表札には、風原ではなく「九宮」と書かれている。読みが分からない。でも、確かにここだ。
雨に熱を奪われて冷え切ったその身体を緩慢に動かし、震える指先でインターホンを押し込んだ。
その少女が玄関に立っているのを発見した時、九宮律華は事態を飲みこめずに呆然とした。
そして、少女が「風原くんはいますか」とか細い声で言った瞬間、その名前も知らない少女を家に招き入れることを決めた。
= =
突然の来訪者に、その人――九宮さんは嫌な顔一つせず歓待してくれた。
ずぶ濡れの私の手を引き、優しい笑顔で家の中へ。床が濡れることも厭わなかった。
冷え切った身体を温めてあげるためにシャワーを貸し与えてもらい、雨に濡れた服を洗濯してもらい、それが乾くまでの間にと自分の古着を貸し与えてもらった。
優しく、明るく。
出会ったばかりの人間に、人はこれほど優しくなれるのだろうか。九宮さんの優しさが言葉になるたび、私はどんな顔をすればいいのか分からず萎縮してしまった。こんな時、自然に振る舞えない自
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