第7話 アンダースタンディング
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とする。その時のあの子の表情は、何か恐れから逃げるように必死で……そうした後に、はっと我に返って謝るの。他人行儀に」
「……そういえば、麗衣に手を掴まれそうになった時も振りほどいてた」
「学校でもそうなのね………一度だって私を名前で呼んだこともないし、日常に敬語を崩さない。学校で何があったのかを聞いても、質問された内容だけ事務的に答えるだけ。悔しいけど、家族として認められていないの」
難く固く閉ざされた心。
他人を拒絶する彼の態度の原因は、果たして虐待そのものなのか、それとも他者と関わることへの拒絶なのか。少なくとも母親からの虐待が何らかの形で彼に影響を与えたことは間違いないだろう。
なんとなく、風原くんの強さだと思っていたものが分かる。
私は他人を敵か味方かといつも恐れながら確認していた。でも風原くんは違う。
彼の中では他人は全て敵であることが前提なのだ。
前提として、大人は敵。
前提として、同級生は敵。
敵ならば関わらないし、向こうから関わって来るならば全力で反撃して追い返す。
他者を寄せ付けようとしない人間関係の絶対防衛圏――全力の自己防衛行為。
「風原くんは強くなんかない。むしろ、誰よりも怖がってたんだ……」
「人間不信から来る拒絶意志。人と関わって苦しむくらいなら、最初から関わらなければいいと思ったのかもしれない。でも……それでは駄目。あの子はいつか壊れてしまうわ」
終わりのない防衛。終わりのない拒絶。常に執行される自己防衛。
そこには安らぎなど存在しない。幸せなど存在しない。
寧ろ、彼にとって幸せという概念はないのかもしれない。ただただ現状を維持するのに必死で、味方かもしれない人もニュートラルな人もすべて敵であることを前提に自分の内側を隠匿し続ける。
そんな生き方に疲れたとしても、彼はそれを止めないだろう。
止めれば彼にとって守り続けている何かが危険に晒される。その恐ろしさから逃れるために、彼はさらに抵抗する。唯必死に自分の身を守るように。
嫌われるとか嫌われないとか、求めるとか求めないとか。
風原くんの場合はそれ以前の問題で、そんなことを気にする余裕など存在しない。
「そっか、私………」
唐突に、私は風原くんの事をどうして気にかけているのかに気付いた。
彼の行動はすべてがとても排他的で攻撃的に見える。
でも彼はその行動原理からして、むしろ弱くて虐められる方の人間なんだ。
私はそのことに心のどこかでシンパシーを感じていたんだ。何かを怖がりながら毎日を過ごすことへの奇妙な共感を。
だから、負け犬だと言われたときにムッとした。
いじめっ子にも似たようなことを言われたことがあるのに、風原くんの時は根に持った。
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