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新説イジメラレっ子論 【短編作品】
第7話 アンダースタンディング
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は想像もつかないよね?」
「風原くんにも子供の時なんてあったんだ」
「そりゃ誰にでもあるでしょ!……気持ちはちょっと分かるけどね」

 普段は無表情化仏頂面を振ら下げて歩いているあの風原くんに、こんなにも可愛らしい時代があったとは、と密かに戦慄する。失礼だが、なんであんな風に成長しちゃったのかとか考えてしまった。

 一見して幸せそうに見える家族そのものだ。でも、分からない。
 九宮さんは自分を風原くんの親代わりだと言った。なら、本当の両親は今どこで何をしてるのだろう?何故風原くんは親元を離れておばに育てられているのだろう。

「あの……九宮さん」
「ちょっとタンマ。その九宮さんって呼び方は何だか他人行儀だから律華でいいわよ?」
「あ、はい……。それで、えと、律華さん。この人たちは今はどこにいるんですか……?」
「――知らない」
「え?」
「その二人はね……真人君が小学生だった時に蒸発しちゃったの。子供の風原くんを置き去りにしてね………知らなかったでしょ?」
「そんな……風原くん、そんなこと一言も……」

 いや、そもそも風原くんは他人に何も聞かない代わりに自分の事も何一つ語らなかった。
 前にちらりとそのような事を聞いてみたが、結局答えてはくれなかった。
 彼は幸せで強いからあんなことを言えるんだ、と内心で思っていた。
 母が死んで以来父に虐げられている私の気持ちなど分からないだろうと。

 でも風原君は――捨てられた。実の両親に。
 それは一体どれほど辛いことだったろう。私には想像もつかなかった。
 みんなに私の何が分かるんだと憤っていたくせして、私は隣の席に座る男の子が辛い過去を持っている事すら知らないで不幸面をしていた。過去の自分が滑稽だったと気付かざるを得ないほどに。

 写真の中であどけない目をこちらに向ける過去の風原くんが、あんなにも変貌するような軌跡が、過去と現在の間には横たわっているのだろう。
 律華さんは悲しそうな顔で小さく笑いながらマグカップの取っ手を弄ぶ。

「真人くんはそんな事を周囲には一言も言わない。誰も寄せ付けない。知ってもらおうともしない。私にさえ、弱音一つ吐いたことはない。決して本音を他人に見せようとしないから――それでも覗こうと歩み寄る人の手を払いのける……そういう子なの」
「律華さん……」

 律華さんは自分の掌をぎゅっと握り込んで、自分の胸に押し当てた。悔しさを抑え込むようなその手と辛そうな表情がとても印象的で、可哀想で、私はなんと言葉をかければいいか分からなかった。
 でも、やがて顔を上げた律華さんは、私を見てほんの少しだけ嬉しそうな表情を覗かせた。

「だからね……貴方が初めてよ。真人くんに会いに来た子は」
「……風原くんは、どこに?」
「自
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